届かぬ一矢

武人と獣は、墓標のように互いの武器を突き立てた。


そして、ほぼ同時に地面に倒れ込む。

急所を突かれたバーンは言うに及ばず、ソラもまた、深すぎる傷と出血により、意識を失った。


互いの傷口から流れ出した血液がアスファルトの地面を濡らし、血の池を形作る。

相打ち。何も知らぬものが見れば、そう形容するだろう。

だが、相打ちではない。


バーンの巨体がむくり、と起き上がり喉に刺さった短剣を無造作に引き抜いた。頸動脈を引き裂いた刃は、その傷口から激しい血流を噴出させる。


だが驚くことに、数瞬後には刃が刺さっていた傷口はすでに塞がりかけ、僅かな傷跡を残すだけとなっていた。


「……中々やる」

驚愕が滲んだ称賛の声。

それは、『異能』を使わされたことに対する驚愕である。


バーン・フォーゲンもまた、ソラと同じく特別だった。もっとも、ソラと同じような『超能力サイキック』ではなく、大いなる文明の欠片とも言える、生まれ持った肉体的な能力だ。


この世界は、一度目ではない。かつて存在し、滅びた文明の技術を得ながら、発展してきた世界である。そのため、この世界には『前期文明』の残滓が残っている。


その一つが都市の外に蔓延るモンスターである。彼らは前期文明の生物兵器やその末裔、あるいは化学兵器により変異した特殊な生物たちだ。


そのうちの一体に『イモータル』と名付けられた蜥蜴トカゲ型のモンスターがいた。


そのモンスターは数十年前、プラジマス都市近郊の荒野に現れ、都市間輸送車タウンシップや《傭兵》を狙い、食らい尽くした。


最終的には都市軍備隊タウンガードが出撃し、討伐されたものの、軍人54人、多脚型戦車マルチタンク14台を破壊した。


それほどの被害をもたらした最大の要因はイモータルの『再生能力』にあった。


体内に飼っていた生体ナノマシンによる高速再生を可能とした大型のモンスターは、死してなお、特殊なナノマシンと言う『贈り物ギフト』を残し、軍事産業や製薬会社の科学者たちを歓喜させた。


バーン・フォーゲンは彼らの実験体の一人だった。


生まれる前から遺伝子を操作され、イモータルの生体ナノマシンを移植された彼は、生まれつき強靭な肉体と再生能力を持っていた。


だが、彼の再生能力は『イモータル』には遥かに劣る回数制限付きの物だったため、生まれて間もなく研究所から放逐された。


心臓と脳を潰されない限り、再生可能な彼にとっても、急所を貫いた傷を癒すのは肉体に負担がかかる行為だった。


バーンは疲労感で僅かに重くなった身体を引きずりながら地面に落ちた血まみれの鉈を拾い上げる。そして地面に倒れ伏すソラを見る。


驚くことに、肩に深い傷を負っていたソラの流血も既に止まりかけており、この男もまた普通ではないことを改めてバーンは感じ取った。


――殺すべきかどうか


バーンが思い悩んでいると、P.A.S.に内蔵された通信端末から、仲間からの救難信号が入った。


(これは、『赤薔薇』か)


バーンの仲間もまた、実力者揃いだが、流石にあの『赤薔薇』の相手は難しかったらしい。この時点でバーンはA


「総員プランBだ。撤退するぞ」

バーンは仲間へと連絡を入れ、仲間の元へと向かった。

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