兵隊乱戦

俺達が揃った瞬間を見計らったかのように一軒家の扉が吹き飛んだ。


示し合わせも無く、三人が扉に武器を向け、引き金を引く。大柄な人影が血しぶきを吹き倒れ込み、俺たちはその末路を見ない内に散開した。


次の刹那、銃弾がリビングをハチの巣にした。けたたましい音を立て、木片が飛び散り、マズルフラッシュの光がいくつも見える。


俺はトイレの入り口を蹴破り、リビングから避難する。他の2人がどうなったのかは知らないが、多分死んでいないだろう。


そしてトイレの小窓から身体を出し、内庭に降りる。


敵のほとんどは玄関側の正面にもいるが、数人は後ろに回っていた。まずは、そっちからだ。


下草を音を立てないように気を付けながら、走り抜ける。


そして、敵の姿を確認した。

黒い防御服に身を包み、小銃を下げた人間。その顔はフルフェイスのマスクに包まれ確認できない。


所属を示すような胸章やマークも当然身に付けていない。


敵がこちらに気づくよりも早く照準を合わせ、引き金を引く。

手先が痺れそうな派手な反動の後、マスク諸共頭蓋が吹っ飛んだ。


対モンスター用の〈オリゾンR2114〉なら、防具も無意味。弾が尽きるまで打ち尽くそう。


俺に気づいた敵の懐に近づき、撃つ。そしてそいつの死体を盾にし、敵の銃撃を受けながら、反撃で撃つ。


そうしていると、家の別方向からも敵のライフルとは違う銃撃音が聞こえるようになった。ローズとテンも始めたみたいだ。


(なら、メインディッシュは俺が貰うぞ!)


俺は飛び上がり、屋根の淵に手をかけ、身体を引っ張る。そして屋根の上をこそこそと歩き出した。


流石にあの数相手に正面衝突しても分が悪い。とはいえ、身を隠しながら殺していくのもつまらん。やるなら派手にだ。


俺は腰のポーチから一つの球体を取り出す。中心にボタンが付いた鋼鉄の球は店売りの普通のグレネードだ。俺はそのボタンを押し、作動させる。


(5,4,3,2……)


頭の中で数を数えながら、機を窺う。こっそりと頭を出すと、敵はライフルを構えたまま正面玄関を睨んでいる。あいつらがいる限り、ミレナたちが脱出できない。片付ける必要がある。


「ここだッ!死ねえッ」


身を起こし、叫び出した俺に銃口が向くが、構わずグレネードを投げる。

遠心力に任せ、振り抜いた手からグレネードが飛んでいき、アスファルトの地面に着弾する。


そして、炸裂した。


「行け!ミレナぁっ!」


俺の声が聞こえたのかどうかは知らないが、車庫からシャッターを吹き飛ばしながら赤い車が飛び出る。


その車は、爆弾で死んだ死体やら生き延びた敵兵やらをタイヤに巻き込みながら、派手な白煙を立てて走り去っていった。


後は残党狩りだ。


俺は逃げる車にライフルを向けていた敵に向けて飛び掛かる。高さを生かして敵の頭に足をつけ、そのまま地面に着地した。


ごきり、という鈍い感触を感じながら、身を翻し、短剣を抜いた。


本来、見晴らしのいい道路側で接近戦をするのは自殺行為だが、爆発で巻き上がった砂ぼこりや煙が漂うこの場所なら、俺の長所を生かせる。それは、速さと五感だ。


敵が砂利を踏む音を頼りに一直線に走り、すり抜け際に首筋に刃を添える。


半分ほど絶った首筋から血しぶきが噴き出した。


その死体が倒れる音で異変に気付いた敵の一人が、爆煙の中に向けて、雑にライフルを振るう。甲高い銃声と共にまずるフラッシュの明かりが何度も点灯した。


好都合だ。これで敵の場所が分かった。


俺は足元を狙ったその銃撃を跳躍し、街灯に飛びつき、躱す。足元を通り抜けた火花を確認してから、敵へ向けて跳躍し、敵の寸前で止まった。


その瞬間、俺が斬りつけようとしていた敵の全身に鉛玉が突き刺さり、その身体を吹き飛ばした。


「……横取りだぞ」

「ちんたらしているからよ」

ショットガンを構えたローズが俺の文句を聞き流した。


「他の奴らは?」

「それはテンが――」


話していると、隠れ家の横脇から敵兵一人が走り出てきた。だがその脇腹には血が滲み、這う這うの体で傷口を抑えている。


俺達の姿を捉え、一瞬足が止まった瞬間、無数の銃弾が敵の身体をハチの巣にした。

噂をすれば、ってやつだ。


「おう、お前ら。無事だったか」

テンも無事みたいだ。敵も素人ではなく、訓練された兵隊だったが、その程度の人間を纏めてぶつけた程度で死ぬほど、俺たちは誰もやわではない。


俺は辺りに散らばる死体とズタボロになった一軒家を見てため息を吐いた。


「なんだよこいつら」

「さあな」

そう言いながらテンは手近な敵のマスクを剥ぐ。その中から出てきたのは普通の人だ。


戦闘用のインプラントを入れているようにも見えない一般人。それが死体の表情から感じた印象だった。


「知らねえな」

テンはローズに顔を向けるが、彼女もふるふると首を振った。


「チンピラ、にも見えねえが、持ってる銃は上等だな」

俺は彼らの装備に目を向ける。彼らは同じ防具、同じ武器を使っていた。


黒い標準的な形のアサルトライフル。だが弾倉以外にもバッテリーを付ける場所があり、要所要所を白い装甲でカバーしている。


確か、スミスの武器屋でも同じものを見た記憶がある。


「この銃は〈EAR-4〉よ。数十年前からある電子加速型アサルトライフルでバッテリーを使って弾を加速できるの。壊れにくくて作ってるメーカーも老舗だから愛用してる奴は多いわ」

疑問が浮かんだ俺の顔を見て、ローズが説明してくれた。


「えあーふぉー。でんし、でんし。……なるほどね」


要するにこいつらの武器は『いい銃』でよくわからん奴らが部隊単位で揃えられるような武器じゃないってことだ。


「なら貰っとこっと」


俺は転がったライフルを物色しながらふらふらと歩く。それを見たローズは大きくため息を吐き、蔑みの眼差しを隠すことなく向けてきた。


「……クソ鼠野郎」

ぼそっと呟かれた言葉が俺の心に刺さるが、無視して一つのライフルを手に取った。

俺が素人目で確認した限り、一番状態がいい武器だ。


「ようし!行くか!」

「「……」」


街のどこかからパトカーのサイレン音が遠く響く。静かに照らす街灯だけが、俺たちを見守っていた。

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