第7話

「フミコ! フミコォ!」

 島民が高台へ押し合い圧し合い避難に向かう人波の中、カジトはフミコを探していた。

「こんな時に……どこへ行ったんだ」

「フミコを見なかったか?」と手あたり次第に声をかけると一人の漁師が、港へ走っていく姿を見かけたと教えてくれた。

 急いで山をくだり港へ向かうと、月光で輝く海面にジェットボードに乗る黒い人影が見えた。その手に持つものは魔銛。

「あれは……魔銛! まさかあいつ」


 バグマドが放つ怒号は海原に共振して大きな荒波を立てていた。

 沖に出たフミコは押し寄せる大波のトンネルを巧みな足さばきでくぐるように滑走する。

 死人しびとにも見える異形の怪物の目前までせまると、魔銛を空に掲げた。

「一角鯨お願い、私の元に訪れて!」


 その瞬間バグマドの目玉はぎょろりとフミコに向き、ひだ状の大きな触手が天高く舞い上がると、一気に振り下ろされた。


「フミコォ!」

 カジトの乗った漁船が立ちはだかると触手は向きを変え、漁船を押し潰す。海は大きく二つに割れ、その衝撃波は島の岸壁まで届き、ガラガラと岩肌をえぐった。

 カジトはその勢いで荒れ狂う大海原に放り出された。


「オヤジィ! よくもぉ」


「やめろぉ!」

 声がするほうに顔を向けると、舟板の破片につかまったカジトが漂流しているのが見えた。

「俺は無事だ、その魔銛を棄てろ」

「オヤジ、私がこの島を守る。そして一人前だっていうことを認めてほしい」

「お前が犠牲になる必要など……ない!」

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