第4話

 鬱蒼うっそうとした森にたたず御嶽うたきの前で、神職を司る老婆が一人瞑想にふけっていた。そのうち老婆の周りに、ぽうっと揺らぐ炎がひとつ、ふたつと現れ始めた。

 島の長老たちが遠隔意識介入リモートコネクトをしてきたしるしだ。


 ――バグマドが現れたようだな

「……知っておる」


 ――不死の大陸で再び生体廃棄物の海洋放出が始まったようだ

 ――彼らは不死の体を手に入れたが、その老廃物もまた不死

 ――バグマド、むしどろは重なり合って新たな生態へと変化した。そして海洋哺乳類を食らい尽くした。一度は撃退できたものの、再び脅威が訪れる日は近い

 ――一角鯨いっかくげいを発動させるしか手はないな


「カジトが拒むじゃろう、宿命といえども一巫女ヒミコを失った悲しみから今も逃れられずにおる」

 ――一巫女は魔銛人として不適正だった。しかし混合種ハイブリッド二巫女フミコであれば、操れるのではないか?

 ――この魔銛まもりを扱うには皮肉にも不死人ふしびとの遺伝子情報が必要だ

 ――カジトとヒミコが恋に落ちたのは予想外だったが、今となっては救いになるかもしれぬ

「人ならぬ者との交わり、あってはならぬ禁忌……」


 ――一角鯨を覚醒させるには触媒が必要だ、二巫女が適任であろう

「しっ……誰か来たようじゃ」

 御嶽を照らしていたいくつかの炎がふっと消え、蝋燭ろうそくの火だけが暗闇に揺らぐ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る