第2話

「人造海豚とよく息が合ってる、いい海女あまになったなあ。このまま魔銛人まもりびとになるんじゃないのか?」

 同船した漁師がそう語ると、フミコの父親カジトは曇った表情をしながら、ぼそりと呟いた。

「フミコを魔銛人にはさせない……あいつには人並みの幸せを掴んでほしい」

「ああ悪い、母親のことがあったな。でも選ばれたら断れないぞ。それがしきたりだ」

「そのときは島を出る」

「島を出ると言っても行くところがねえぞ。まさか不死の大陸にでも行くつもりか?」

「あそこは俺が忌むべきところだ。 ……どこか無人島でも探して二人で暮らす」

 

 海豚と遊び疲れたフミコが漁船に戻ってきた。ボードを引き上げ、梯子をつたって船に乗り込むと、手にしたものをカジトに見せた。 


「海豚に変なものが付いていたんだけど何かな?」

 びくびくと動く緑色の物体が差し出され、隣にいた漁師も覗きこむと恐怖に怯えた表情に変わった。


「これは……バグマドの欠片かけら

「バグマド?」フミコは聞いたことのない言葉に興味を引いた。

「こいつのために……ヒミコさんは犠牲になった」

 カジトはそれを握り潰すとぐちゃりという鈍い音がして、ボタボタと下へ垂れた。散らばった塊はピクピクと舟床を這いずりまわる。


「ヒミコさんって……母さんのこと? どういうこと?」

「お前は知らなくていい、もう同じあやまちは繰り返さない」


 漁師はまだうごめく断片を見つめ、おびえながら呟いた。

「これは島の宮司ぐうじに伝えないとなあ。十八年前の悪夢の再来だ……」

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