一角鯨使いのフミコ

NEURAL OVERLAP

第1話

「オヤジィ、この辺でいいんじゃないか?」

「そうだな、じゃあ後は頼んだぞ、フミコ」


 フミコがジェットボードのスターターロープを思い切り引っ張ると、エンジンはドッドッと音を立て舟床ふなどこにこだました。

 ジェットボードを両手で抱えて漁船から飛び降りると、ザブンという音とともに水珠みずたまがキラキラと宙を舞う。

 すぐにボードデッキに飛び乗り、前かがみになって態勢を整えると、スクリューから噴き出す泡の勢いでジェットボードは滑るように海面を切り裂き、白い引き波を描き出した。


 船から離れ、一人波打つ海原を滑走すると黒い魚影が見えてきた。この時間はエサを求めて魚の群れが水上に浮かんでくる時合じあい。


 ――フィー――

 口にくわえた共振笛きょうしんてきを吹くと、水面から六本のヒレが浮かび上がり、ジェットボードの左右に並んだ。


 ――フィフィー――

 フミコが合図をすると、その群れは編隊を組みながら一斉に魚影を囲い込む。

 海豚いるか漁が始まった。

 海豚たちは追い込まれた魚を口に咥えるとすぐに漁船に向かい、その魚を船上に向かって放り投げる。ビチビチと勢いよく跳ねる魚が舟床を覆っていく。


「大漁だ。もうこのくらいでいいぞ、フミコ」

「うんじゃあ、ちょっと海豚たちと遊んでいくよ」


 フミコはボードを蛇行させながら水しぶきを上げると小さな虹がかかり、その輪をくぐるように海豚たちが元気よく飛び跳ねる。

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