第23話

 そのときの記憶といえば、窓を激しく打ち、屋根を暴れて叩く雨の音です。まるで背中を無数に小突かれて鼓舞されているようでした。


 そうして徐々に実際の雨音がフェードアウトし、入れ替わるようにピアノの旋律が頭の中を泳いでいきました。


 美しい旋律でした。うろ覚えなのですが、おそらくショパンの『雨だれ』の前奏曲だったと思います。本当に美しい旋律でした。


 煌々こうこうと蛍光灯が照りつけていたなら、失った自我と向き合う猶予もあったでしょう。暗闇はそんな私の罪悪を同化させていました。黒い中での黒い所業は私には無いことと同じでした。黒い空気と相対して空を切るパンチを繰り出しているようなものでした。


 爽快感はありました。スポーツのようなものです。

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