第9話

 それからの私は骨抜きのように天使に導かれていました。早朝に天使が登校する跡を追い、地元の小学校へ入っていく姿を見送りました。そして放課後、帰宅する天使の背後からついていきました。


 私はただ天使の保安のために見守っていたのです。物騒な世の中ですから、こんなに愛くるしい天使を腐れ外道のやからが標的にしないか監視していただけなのです。


 気配を感じてなのか、天使は時たまこちらを振り返りました。私の気の緩みなのか、次第に距離を詰めて近づいていたのです。私はその都度、電柱に、ポストに、民家の隙間に身を潜めました。私は天使に接触を図るつもりなど毛頭ありませんでした。ただ存在し、ただ伸びやかに歩く天使の姿を陰ながら眺めていたかっただけなのです。


 しかし目に映る天使はいつもどこか物憂げで、小学生が持ちうるべき周囲を照らすような笑顔もなく、苦い陰影が取り巻いていると私は感じていました。


 友達と下校することもなく、家へ着いても駆け込むようなこともない。その姿に私の心は締め付けるほどの胸の痛みを患いました。己の幼少時代を重ねていたのかもしれません。他人の家庭を羨んでいたあの少年期を私は照らし合わせていたのかもしれません。私はそこで目測を誤ったのだと思います。天使との距離を結果、縮め過ぎたのでしょう。


 私は天使が住む家の中を眺めました。大抵はリビングのテレビでゲームをしていました。コントローラーを握りながら、体を左右に揺らして夢中になっていました。それはとても微笑ましい光景でした。


 私はその姿をより間近で見たくて、芝生の庭へと入り込んで見つめました。天使がこちらに気づきそうになると私は身を潜めました。

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