第5話

 それが過ちとなり、いえ、過ちと見なされ、私は児童自立支援施設へ通わされました。県立高校を辞め、定時制へ通うかたわらでその施設へも自宅から通うことになったのです。


 それでも父は変わらずに私をとがめることはありませんでした。むしろ父から、父子家庭であることの謝罪がありました。父は私のことよりも自責の念にかられていました。

 私はその姿に胸が痛くなることはなく、父親ならば叱ればいいと失望したのを覚えています。自分を非難することで私への叱責から逃れているように見えました。


 その施設はとても退屈でした。正直、何も学ぶことがないのです。倫理や道徳を植え付けようとしたところで意味がないのです。何故なら私には既にそれらを持ち得ているからです。十七歳になって九九を習わされているようなものなのです。納得できないではないですか。


 しかし家庭裁判所による措置のため、不満があっても通わざるを得ませんでした。父親の顔を立てる義理もうわべにはありましたし、私は与えられた蛇足カリキュラムを全うするしか道はありませんでした。


 苦痛ではあったものの得るものもあり、私はいつしか保育士になりたいと願うようになりました。私の欲求の矛先を分散させるため、そして嗜好しこうを満足させるため、精神を安定させるためにそれは天職に思えました。


 私は専門学校へと進むことを決意し、新しく築かれた未来を感じ、視界はひらけたと確信していました。ようやく私の求めた答えがあったのです。

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