第3話

 中学の頃から私はあまり家へ帰らなくなりました。悪さを覚えた、という言葉は適切ではないように思います。ただ家で父と二人になるのがとにかく億劫おっくうだっただけです。


 父はそんなときでも私を叱ることはなく、ただ悲しそうな顔をしているだけでした。私にはそれが何より苦しく、何よりも苛立たしいことでした。父にとって私はどういう存在だったのでしょう。


 腹が立つのか、鬱陶うっとうしいのか、興味がないのか、そもそも存在すら認めていないのか。私はただそこに言葉が欲しかっただけなのです。答えのない問題ほどたちの悪いものはありません。私は父から答えをもらわないままに、体は勝手に成長を遂げていったのです。


 そんな私でも高校へ進むことを望みました。それは生きる目的を探すための時間と場所を求めていたのかもしれません。三年間猶予を伸ばし、そこで自分の存在意義を確立させたかったのです。


 偏差値は中の下ほどの県立高校でしたが、マークシートのおかげか、半年間の詰め込んだ勉強でなんとか合格できました。父親は笑いはしませんでしたが、背中で喜んでいたように見えました。それでも私には嬉しかったのです。父の期待に初めて応えられたと実感したのです。

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