第7話 勝負の行方

「あはは、何言ってんの」


 ぼーっとする頭を抑えながら、突拍子もない発言を笑い飛ばすと、自分の笑い声が頭に響いた。


「私が夜を上ったら、美優さんは私のこと好きになってくれますか?」


 なゆも相当に酔っている。そう思うと少し楽しくなってしまった。自然と頬も緩んでくる。


「あー……、好きになる。かなぁ?」


 おかしな質問をするものだ。そもそも、Night Lilyという共通点がなくて友達になんてなれるだろうか。自分となゆとではタイプが違いすぎる。


「本当ですか? 付き合ってくれる?」


 なゆは前のめりになって訪ねた。さっきまであんなに穏やかに笑っていたのに、目が据わっていて怖い。それでも呂律が回っている分、自分よりマシだと思った。


「付き合う……。なんか、いよいよ目が回ってきたかも。なゆはさすが、お酒強いねぇ」


「待ってください。今の言葉、もう一度ちゃんと聞きたいです」


 少し苛立ったようになゆは鬱陶しそうに髪を掻き上げた。


 艶やかな髪が彼女の白い肩にハラハラと落ちるのが綺麗で、馬鹿みたいにぼーっと見惚れていた。


(ほわほわして眠くなってきちゃった……)


 睡眠不足は肌に悪いと十分承知しているが、この所(特になゆと出勤が被る日は)眠れないことも多かった。


 眠気に逆らえないまま、再び目を閉じ掛けると、なゆは少し乱暴に美優の肩を揺さぶった。


「美優さん、お願い。まだ寝ないで」


「待って、揺らさないでー……」


「美優さん!」


 なゆは珍しく声を荒げた。いつも冷静ななゆが珍しい。子どもみたいに必死になるなゆが少し可愛く思えて美優は首を縦に振った。


「わかった、わかったよ……、なゆが夜を上ったら、付き合ってあげる。なんでもしてあげる」


 なゆがハッと息を呑んだ瞬間がわかった。


「……なんでも? 」


「なんでも! ヤンニョムチキン食べに行くのも良し、あとは……」


(……あとは何がしたいって言ってたっけ?)


 ーーもう思い出せない。


 美優は冷たい机に突っ伏しながら、これまで彼女がしたいと言っていたことを思い出した。まあ、どうせ大したことは言われていないはずだ。


 ピロン、と軽快な音が聞こえた。


「……ん?」


「今の言葉、録音しました」


 なゆはいつの間にかスマホを取り出していた。


『なゆが夜を上ったら、付き合ってあげる。なんでもしてあげる』


 再生される自分の声、なゆは潤んだ瞳でガッツポーズまでしてる。あれ、そんな子だったっけ?


(結構はしゃぐタイプだったんだ……)


 美優は眠たい目を擦りかけて慌てて手を止めた。しまった、早く化粧を落としたい。


「そう言う訳で、明日朝イチで辞めてきます」


 なゆはいそいそと帰り支度を始めている。


「待って……どういうこと?」


「大丈夫です、そろそろ行きましょうか。美優さんもだいぶお疲れですもんね。起きれそうですか?」


「んー……起きれる、よ」


 自分ではまだまだ動けると思っていた。だが、テーブルに手を着いた瞬間に再び机に突っ伏してしまった。


 なゆの少し慌てたような声が聞こえた。大袈裟なんだから、そう言いたかったはず。


 なゆの細い腕に支えられたまま、美優は今度こそゆっくりと目を閉じた。

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