彼女は五人で戦える
猫被 犬
第1話
「園崎さん!」
ある大学の研究室の一室で、彼女は男子学生らしき人物に声をかけられた。
声をかけられた人物の名前は
声をかけた方の男子学生は、興奮した様子で麻衣に話しかける。
「今日のゼミでの発表凄かったです! 他の生徒からの質疑応答にも完璧に答えてたし、死刑の停止付き条件まで完璧にわかってるんですね!」
裏のない賞賛の言葉に、麻衣は頬をほころばせる。
「ありがと優斗君」
彼の名前は
同じゼミに所属してる大学の生徒だ。
「それで園崎さん、今度一緒にご飯でも行きませんか? 俺園崎さんともっと話してみたくて……」
大学の三回生になり、彼と同じゼミになってからもう五か月に差しかかろうという頃だ。優斗は麻衣に好意を寄せているのは誰の目にも明らかだった。それでも麻衣は優斗の好意に応えようとはしなかった。
「ごめんね優斗君、僕バイトのシフトを多めに入れてるから、授業がある時以外は予定埋まってるんだ」
「そう……ですか……」
分かりやすくしょげる彼の態度に少し罪悪感を覚えながらも、麻衣は研究室を後にした。
*
別に優斗の事が嫌いという訳ではない。麻衣は男性と深く関わらないと決めている。それは高校一年生の夏に起きた出来事がきっかけだった。
部活で帰りが遅くなった麻衣は、早く帰ろうと普段使っている通学路とは違う人気のない裏道を通ろうとした。
その時に悲劇は起きた。
その時期にその地域で指名手配されていた、強姦魔に遭遇してしまったのだ。
剣道部だった麻衣は激しく抵抗したものの、竹刀を持参していなかった為強姦魔に太刀打ち出来なかった。
その際に暴力を振るわれた挙句、強姦未遂をされてしまった。強姦魔は通報を受けすぐに捕まる事になったが、麻衣は心にトラウマを追う事になった。
正確にいえば、心に抱えたトラウマを忘れる事には成功した。
自我の分散、人格の派生をさせる多重人格者になり、他の人格にその記憶を肩代わりさせたのだ。
そうする事によって、麻衣の心の平穏は保たれた。
だが話はこれで終わらなかった。
その後強姦魔が父親の遠い親戚にあたる者だという事が発覚したのだ。
それを知った麻衣の母親は、麻衣の父親と一緒にいることに嫌悪感を示すようになってしまった。
夫は無関係だとは理屈では分かっているものの、どうしても娘に暴力をふるい強姦未遂をした犯人と同じ血が夫にも流れていると思うと、それを許容することが出来なかった。
協議の末に破局。
その後の生活は荒れ、一緒についてきた麻衣にまで辛く当たるようになってしまい、最終的に麻衣は麻衣自身の人格も含め五人の人格を内に秘める事になった。
男性と深く関わらないようになったのは、男性を心から信じることが出来なくなったためだ。
高校一年生の夏が終わる頃、麻衣は剣道部を辞め、武器なしでも身を守る事が出来る空手と柔道を習い始めた。
彼女は五人で戦える 猫被 犬 @kaburi-cat
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