第12話 『真実の愛』は永遠不滅ですわ!

 あら殿下? いきなり剣など抜いてどうなさったのですか?

 殿下は何が御不満なのですか?


 おふたりが心から望んでいた永遠の『真実の愛』に満ちた生活が始まるというのに……。

 それに、国王陛下の御前で、王妃となることが決まっているわたくしに、斬りかかりなどしたら――


 ですからご忠告しましたのに。

 そんなことをするから乱暴に取り押さえられ床に這いつくばらされてしまうではありませんか。


 カール陛下。そんなにお怒りにならないで。

 おふたりは容姿はすぐれていても、中身は禽獣に等しく、人間の法律など理解できる知能はありませんもの。

 今のは頭の悪い番犬が吠えた程度のもの。


 ああ……でもいいですわ。絵になってますわ……。

 殿下のような超絶的に美しい貴公子が豪奢な金髪を振り乱し床に押さえつけられているお姿も、カトリーナ嬢のような神々しいまでの美貌の女性が、乱れたドレスの胸元から豊満な乳房までまろびださせて泣き喚いているお姿も……。


 神々の零落という感じでドラマチックですわね!

 これもデルピエロ画伯に描いていただきますわ!


 ですが。

 どうしておふたりとも、わたくしをそんな血走った目で睨み付けるのでしょうか? 理解できませんわ。


 まさか殺したいとかではありませんわよね?

 わたくしは、おふたりの希望を叶えてさしあげたんですもの。


 おふたりはこれから『真実の愛』だけに生きていけるのですわよ。

 殿下は、あれほど嫌がっていた政治からも礼儀からも勉学からも……全ての面倒な現実から解放されるのですわよ。

 カトリーナ嬢は、あれほど無視していた社交のマナーも勉学からも……ありとあらゆる決まり事から解放されるのですわよ。

 おふたりはこれから、混じりけ無しの純粋無垢な『真実の愛』だけに生きていけるんですのよ。

 感謝されこそすれ恨まれる筋合いはありませんわ。


 あ、兵士の皆様。おふたりの体に傷はつけないでくださいまし。

 芸術品にも等しいおふたりのお体は、明日から毎日『真実の愛』として隅隅まで公開されるのですもの。

 

 ええ。傷や痣さえつかなければ、問題ありませんわ。


 お引き留めしてごめんなさい。

 兵士の皆様。お二人を新居に連れてっいってさしあげてくださいまし。


 では、殿下、カトリーナ嬢。

 明日、植物園での『真実の愛』公開記念式典でお会いしましょう。

 これからの『真実の愛』のうつろいを、とっくりと見せていただきますわよ。


 ああ、うつろいなどありませんわね。

『真実の愛』は永遠不滅ですものね。


 ふふふ。あはは。

 本当に楽しみですわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

婚約破棄、喜んで承りますわ! 『真実の愛』に生きるって素晴らしいですもの! マンムート @NOMINASHI

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ