第10話 めでたしめでたしですわ。

 殿下? なにをわめいていらっしゃるのですか?


 誤解ですわ。

 わたくしはカールお義兄にい様と浮気などしておりませんでしたわよ。

 容姿以外悪いところしかない殿下と婚約せよという王命を受けてからずっと、心の奥底に押し殺して封じておりましたのよ。この恋は終わったのだと。


 わたくし、婚約者がありながら、他の殿方に身を任せるような、破廉恥な女ではありませんもの。


 そもそもわたくしは、カールお義兄にい様――


 ふ、ふぇぇ。か、カールと呼ばなきゃだめですか!? う、うう……。


 か、カールを婿に迎えて女公爵として実家を継ぐ予定でしたのよ。

 それを王家の横槍で王太子妃とされ……それでカールお義兄にい、いえか、カールが親戚から養子として迎えられましたのよ。


 殿下はご存じなかったようですが、わたくし王命で無理矢理殿下と婚約させられなければ、カールと婚約するはずでしたの。こちらが先約でしたの。

 そちらは後から割って入ってきた邪魔者でしたのよ。


 幼い頃から慕い合っていたカールとの婚約を、わたくし心待ちにしておりましたの。なのに殿下のような容姿以外何の取り柄も魅力もない愚物と婚約させられてどれほど哀しかったことか!


 ああ、カール様! カール……もう二度と離れるなんていやですわ……。

 あ、そんなまた、う、あ……ああ……。


 ひ、人前で情熱的な……だ、抱きしめられるだけでもどうかなってしまいそうですのに、キスまで……わたくしを羞恥と嬉しさで殺すおつもりですか……。

 つっ続きはふたりきりの時に、おっお願いしますわ。

 で、でも、貴男あなたのためなら殺されてもいいですわ……


 お、おほん。

 というわけで殿下。


 わたくしは元王家の横車がなければ結ばれる筈だった愛しいカール様と結ばれ。

 殿下は『真実の愛』のお相手であるカトリーナ嬢と結ばれ。

 全てが収まるべきところへ収まったわけですわ。


 おとぎ話めいためでたしめでたしではありませんか!


 みなさん盛大な拍手、ありがとうございますわ!

 わたくしもこれで愛する人と結ばれることになりましたわ!


 ああ、なんて幸せなんでしょう!

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