第9話 こ、こんなところで、だめですわ……。

 わたくしとの婚約破棄を撤回する?


 あはは。あははは。だめですわ殿下。

 そんな面白くもない冗談を仰っては。

 殿下にはカトリーナ嬢との『真実の愛』があるのですもの。

 政治とか保身とかそういう不純物はいりませんわ。


 それに、おふたりのあいだに『真実の愛』がないのでしたら、今の殿下には何の価値もありませんし。

 もう一度仰ったら『真実の愛』が消滅したと判断せざるをえませんわ。

 そうしたら殿下とカトリーナ嬢は、一時停止処置を解除され、収監され裁きを受ける事になりますわよ。

 多分、おふたりとも売国奴の一味として処刑されることとなりますわね。


 せっかく『真実の愛』を見つけてお幸せになられたのですから、死に急ぐ必要などありませんわよ。


 はぁぁ……

 お幸せになったおふたりに引き換え、わたくしは……。


 地味でブサなわたくしには高望みだと判ってはおりますのよ。

 でも、わたくしだって幸せになりたいですわ……。


 え、カールお義兄にい様……きゅ、急に何を言い出しますの。


 だ、駄目ですわ。わたくしは婚約破棄されたばかりの身……新王陛下の妃になるなど……。


 いいえ! そういうわけではありませんわ! わたくしの心はずっと貴男あなた様だけのもの。他の方に心を許したことなんてありませんわ。

 ですが! 婚約破棄されたばかりの女を妃に迎えたらカールお義兄にい様のご評判に傷が……。

 それに……わたくし地味で……それほど美しくはありませんわよ。

 ほら。カトリーナ嬢だってそう仰ってるではありませんか。美しさなら自分こそ新王妃にふさわしいと……。

 もちろんあの方は『真実の愛』に生きるのですから、王妃には迎えられませんけど……。


 え、そんな、わわ、わたくしが、か、かわいいだなんて……わたくし、そんなことを言われるような女では……。

 あ、あうう。ち、近すぎますわ。だ、だめです。ああ、わたくしかわいくなんかないのに……。


 え、ええっっ。

 わ、わたくしが頷くまでいつまでも待ってくださるなんて……。

 わたくししかいないなんて……そんな……。

 世界で一番いとしくてかわいいなんてそんな……

 引き裂かれてからもわたくしだけを思っていただなんて……

 あうあう。


 そ、そこまで仰られたら……わ、わたくしだって、み、身を引くなんてできませんわ……。


 も、申し出、お受けさせていただきますわ。


 わたくしの身も心も、カールお義兄にい#様、いえ国王陛下のもの……末永く愛おしんでくださいませ……。


 ああ、だめですわ。こんなところで……あ……。


 み、みなさん、今のは撮ってはだめですわ!

 あ、ああ、あうあううう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る