そして支払いをするときに父がポケット等を探すが小銭がなかったらしく、いきなり自分の胸に手を突っ込むと己の人魂を取り出した。


「あああ待って待ってそれはあげちゃダメなやつううう!!」


 慌てて父を止める。そして奇跡的に持っていた五百円を差し出そうとするが娘にお金を支払わせるわけにはいかないと思ったらしく父が必死にそれを阻止する。するとガリガリの女性が消え入りそうなか細い声でこう言った。


「今日は、とく、べつ、サービスです」


 どうやらタダでくれるらしい。カップに入った人魂を受け取り再び父と歩き出した。ポップコーンというかなんかもうランタンだ。



 その後のコーヒーカップや小型の観覧車など父と二人で遊園地の中を巡り歩いた。打ち上げ花火もあったがアレどう見ても人魂……きれいだからいいか、と思うことにした。今お盆だから協力者(?)がたくさんいるのだろう。

 一緒に遊んでいるというのに相変わらず父は一言もしゃべらない。何か条件を満たしていないのだろうかと思っていたが、なんとなく父が生きていた時のことを思い出す。


(そっか、もともと口数少ない人だった)


 母曰く口下手で照れ屋。マシンガンのように喋り続ける娘に圧倒されて口を挟む隙がなかったらしい。言葉が少なくとも感情はきちんと顔に出る。楽しそうだ。

 一通り遊び尽くした。終始お化け屋敷にいるような気分だったがそれでも父と一緒の時間を独り占めすることができた。自分のスマホに撮った写真は心霊写真だ。

 入り口の前まで戻ってきて父と向き合う。ついていた明かりが全て消えて他の幽霊たちもいなくなっていた。持っていたカップ入り人魂もすっと消える。静まり返った、閉園した遊園地。夜だというのに父の姿もだんだん透けてきている。


「……えっちゃん、ごめんね。いつも約束破ってて」


 やっと喋ってくれた。叱られた子犬のようにシュンとしている。その様子がなんだかおかしくて、悲しくて、ボロボロと涙がこぼれた。


「いいよ。六年越しに約束を守ってくれてありがとう。おとう……パパ」


 そう言うと父はにっこりと笑って永美の頭を撫でると、スッと消えていった。

 足元には父がよく使っていたカメラが残っている。なぜか電池が充電されていて先ほど父が撮っていた写真を見ることができた。見事なまでに全て心霊写真だ。周りの幽霊たちはにこやかにピースサインまでしてくれている。怖いはずなのに、なんだか温かい心霊写真。

 持ってきていたスマホで自撮りをしてみる。そこには自分一人だけが写っていて心霊写真の要素は何もなかった。本当に父はいなくなってしまったんだなと思ったら涙が溢れていた。


――私、将来はお父さんと同じイベント会社に入ろう。人を笑顔にする、親子を幸せにするイベントを作ろう。一度約束を果たせなくても、後で「来てよかった」って思ってもらえるような、そんなイベントを作って行こう。

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