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母に聞いたのだが、父はイベント会社で係長をしていたそうだ。大型連休や春休みや夏休みなど子供の長期休みのイベントが各地に開催され非常に忙しかった。日曜日など仕事のために存在するようなものだ。そんな大切な日に仕事ができませんは言えなかっただろう、役職者ならなおさら。
呪いのようなものだと思う。父は自分と遊園地で一緒に遊ばない限りずっと成仏できないのだから。
「とりあえず、一緒に遊ぼう……と言いたいところなんだけど、とりあえず怖いから普通の演出にしてほしい」
そこだけは譲らなかった。
父ははっとした表情をして慌ててジェスチャーで周囲に何かを伝える。すると血まみれで歩いていた他の幽霊たちはペコリとお辞儀をしてそそくさといなくなり、人魂は慌てて街灯や木にくっついた。イルミネーションに見えなくは無い、だいぶ苦しいが。
父がウキウキした様子でパンフレットを見せてくれた。あちこち指さすのでどこに行って何に乗りたいかを聞いているらしい……パンフ、血まみれだが。
改めて考える。自分は一体何がしたかったのだろう。何か乗りたい物があった? いや、きっと違うのだ。あの時の自分は。
「……たぶん何でもよかったんだよ。お父さんいつも忙しそうで、お父さんを独り占めしたかっただけだから」
そう言うと、父は目を見開きだばーっと滝のような涙を流した。
ただし血の涙だ。
「~~~!?!?」
悲鳴をあげそうになったが何とか堪えて口を押さえることに成功した。叫んでたら傷つけていたかもしれない。
「と、とりあえず! 今のままじゃお父さんしゃべれないし、何か遊ぼう!」
まず向かったのはジェットコースターだった。この遊園地の目玉なので一番目立つところにある。子供向けなのでレーンは短くかなり小さいものだ。いざ乗ってみようとしたが父が慌てて目の前に立ちはだかる。
「え、なに?」
見ればジェットコースターは既に動いていて幽霊で満員だ。すごく楽しんでいる。幽霊も乗るんだ、と思っているとジェットコースターが入り口まで戻ってきた。乗っていた幽霊のほとんど首がない。さっきまで確かに全員あったはずだが。
「あぶねー!?」
ジェットコースターで首が切断されると言う都市伝説は聞いたことがある。さっきからちょいちょい怖い話や都市伝説がおり混ぜられているように思える。イベント会社勤務の父の血が騒いだようだ。なんでそこ力入れちゃったんだろう。
父がペコペコと頭を下げて、そしてはっと何か思いついたように笑顔になると指をさした。その先にはメリーゴーラウンドがある。正直それに乗る歳でもないが父が死んだとき自分は七歳。記憶が幼少期で止まってしまっているのなら父の願いを叶えようとメリーゴーラウンドに向かった。
いろいろな動物があるがやはり白馬かなと思ってまたがる。白馬も他の動物もおどろおどろし見た目でちょっと怖いのだがもうそれは気にしないことにした。
ゆっくりと動き始めて父がニコニコの笑顔でカメラを構えていた。今撮ったら確実に心霊写真だなぁと思いつつ、そういえば閉園してるのにどうして機械が動いているんだろうと気になりチラリと周囲を見渡してみると。
なんかすごい数の幽霊たちが一生懸命メリーゴーラウンドを手で押していた。
――奴隷がコロッセオとかの仕掛けを動かしてるときのやつ!
歴史の教科書で見た絵を思い出してしまって顔が引きつりそうになるが、シャッターチャンスを待っている父のためにとりあえずピースをしておいた。映る写真はものすごい絵面になりそうだが。
メリーゴーラウンドが終わって降りてくると近くに移動式のポップコーン販売がやってきた。父がちらちらと買いたそうにしているが、当然食べ物が入っているわけない。チラリと中を見てみると、人魂がぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。
――何系だ? ポップコーンなのか、焼き芋にみたててるとか??
想像もつかないが、娘に食べ物を買ってあげるというのも遊園地での醍醐味ではある。買ったら食べなきゃいけないのかな、いや~それはちょっと……迷う。しかし意を決して。
「一個買って」
あくまで子供っぽく、を心がける。父は嬉しそうに指で一つ、と示すとレジにいるガリガリに痩せた女性……たぶん病気だったんだろうなぁと思われるくらいにはものすごく痩せている女性がカップに人魂を入れて差し出してくる。
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