「いや、なんで真昼間からうつるの」

「つーかな、これ、一馬だな。お父ちゃんだ」

「はあ!?」


 慌ててよく見れば確かに。顔は三徹した後の父の顔そっくりだ。事故にあったから血まみれなのか。


「え、言われてみればこのスーツいつも着てたしネクタイも私が父の日にあげたやつ!?」


 辺りを見回しても何も見えない。


「あー、幽霊はな。昼間は光が強すぎてよく見えないんだな。夜になりゃ見えるよ」


 平然と言う祖父に頭の中は大混乱だ。


「待って! じいちゃん見える人なの!?」

「なんならばあちゃんも見える。お父ちゃんも見える奴だったな。えっちゃんは見えないか」

「見えたことは、ない、かな。っていうかお父さん何してんの!?」


はっと気づいた。電話、あれは「遊園地、約束」と言おうとしていたのでは?


「えっちゃんとの約束果たせなかったからかなあ。残っちまったんだな、しゃあない奴だ」

「そんなものすごく普通に言われても」


 霊感ある人ってこれが普通なのだろうか。内心冷や汗ものだ。


「ええっとつまり、私があの遊園地に行けば約束果たせてお父さん成仏できる?」

「うーん、たぶんな?」


 その言葉を聞いて永美は走る。あれから六年、ずっと父は一人彷徨っていたというのか。自分のせいで。

 謝りたいし、また会いたいし、救いたい。そんな思いの中たどり着いた遊園地は。夜になってきているので、ものっすごーく。


「こっわ……」


 思わず呟く。閉園して半年も経っていないがもともと古かったのだろう、あちこち錆びて入口のよくわからないキャラは血まみれのように錆び錆びだ。そんなピンポイントで嫌な錆び方しなくても。


「お、お邪魔します……」


 この奥に父がいるんだと思うとなんとなく挨拶をしてしまった。


「いらっしゃーい」

「おわああ!? 誰の声!? お父さんじゃないじゃん!」


 ビビり散らかしながら叫ぶ。今の声は明らかに女性だった。

 そういえば怪談話で聞いたことがある、心霊スポットにお邪魔しますと言いながら入って最後にお邪魔しましたと言って出てきたら、その時は何も聞こえなかったが録画していたビデオの方にはしっかりと幽霊の声が入っていたというもの。そしてお邪魔しましたと言ったら「帰るな!」と叫ばれていた。そんなもの思い出してしまって普通に、ただひたすら怖い。

 中に入ってすぐに真っ暗だった遊園地が一斉に明かりが灯る。イベント会社がやっている素敵なイルミネーション、というものとはかけ離れた特徴的な明かり。ちょっと見覚えがある。


「人魂やんけ!」


 あたりを照らしているのは明らかに人魂だった。あれ一つ一つが魂だと考えると一体何十人死者が集まっているのかここに。あとたぶん今めちゃくちゃ頑張ってくれてる、燃え尽きそうな勢いでファイヤーしてる。

 続けて辺りに響くのは遊園地独特の楽しげな音楽のはずなのだが。何故だろうか、どこか絶望感が感じられる。半音ずれてるというか、これはアレだ。


「なんで短調にしたの!?」


 大体の曲短調にすると怖くなる説をやっている動画がそういえばあったなと思い出した。

 恐ろしいBGMの中、人魂が煌々と明かりを照らし、血まみれにしか見えないキャラクターが出迎えてくれて、何なら本当に血まみれの人たちも歩いている。あー私もやっぱり見える人間だったんだなぁとようやく実感した。


 なんだこれ、どこの百鬼夜行だ。


 そんな中一人の男が近づいてきた。血まみれで見覚えのある服とネクタイをしている。父の最後の姿はあちこち擦り傷だらけで眠っているようだった。その時と全く同じ姿をしている。


「お父さん」


 声をかけても父は何も言ってくれない。怒っているのだろうかと思ったが、ふと自分が父に言ったことを思い出した。


「遊園地で遊んでくれるまでパパとはおしゃべりしないから、か。律儀に守ってくれてるの?」


 目に涙を浮かべながらそう言うと父はちょっと困ったように笑う。

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