約束を果たそう、パパ
aqri
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「パパのうそつき! 遊園地に行くって約束した!」
電話の向こうで必死に謝る父親。今度の日曜日遊園地に行こうと約束していたのにどうしても外せない仕事が入ってしまい遊園地行けなくなったと謝ってきたのだ。大人の事情、仕事の都合など子供には関係ない。約束を守ってもらえなかった、しかもこれで二回目だ。娘の怒りは収まらない。
「遊園地で遊んでくれるまでパパとはおしゃべりしないから!」
そう言って電話を切る。母親は苦笑しながら夫に電話をかけ直しどうやって娘のご機嫌を直そうかと作戦会議が始まった。娘は口をへの字に曲げている。
それが父と娘の最後の会話となる。会話ですらない、最後は娘が怒って一方的に電話を切ってしまったのだから。ケーキやおもちゃなど、とにかく娘と仲直りできるものをたくさん買って雨の中スピードを出しすぎた結果だった。スリップをしてカーブを曲がりきれずに電柱に衝突し父は帰らぬ人となった。
自分のせいで父親が死んだ。成長するにつれそう思うようになってしまった。本当は母も自分を恨んでるんじゃないか、父方の祖父母は自分のことを嫌いなんじゃないか。思春期になるとそんなことばかり考えてしまう。
警察の調べでは、後続車のドライブレコーダーにふらふらと左右に揺れる車体が記録されており居眠り運転もあったのだろうということだ。あの日父は三日間ほとんど寝ていない事が後でわかった。だから事故は自分の責任だよ、と母と祖父母は言っている。
遊園地が嫌いだ、どうしても行く気になれない。父親と一緒に行くと約束して、それが行けなくて。様々な複雑な思いが湧き起こってしまう。友達に誘われても乗り物酔いが凄いからダメなんだというキャラを貫き通しいつも断ってきた。
行っても絶対に笑えない。
中学一年生の夏、地方の祖父母の家に泊まりに行った時。祖父からこんな話を聞いた。
「この近くにあった子供向けのちっちゃい遊園地、今年の春に閉園しちゃったんだ。今は子供の数も少ないし、新型コロナの影響でお休みせざるを得なかったから」
言われてすぐにあそこかと思いあたる。地元ではないので行った事はなかったが、いつか行きたいと思っていた。父と一緒に……。そんな様子を見た祖父が声をかける。
「えっちゃん、行ってみよう」
「え?」
「お父さんのこと、考えてたんだろう?」
「……」
「あいつは昔から不器用でなあ」
なんのことかわからないが、祖父は目を細めて懐かしそうだ。
「いつか自分にお嫁さんができたら遊園地でプロポーズするんだ、とか言ってな。本当にそうしてるし」
「そうだったんだ」
「遊園地は一馬にとって特別なところなんだよ」
「そっか。でも閉園してるんでしょ?」
「まあ、入り方はいくらでもあるさ」
こら、悪こと教えないの、と祖母が麦茶を持ってくる。アブラゼミとミンミンゼミが鳴く中、
遊園地、か。まるで神聖な場所のような、立ち入ってはいけない場所のような。そんな所だ。
結局その後祖父母は近所で行われる祭りの準備を手伝いに出かけることになった。夕方には戻るよ、とアイスを大量に買ってきてくれたのでありがたく食べる。
トゥルル、と電話が鳴った。
「はい」
防犯の意味でこちらから苗字は名乗らないようにしている。すると相手は無言、悪戯かなと思っていた時。
「ゆ、ゆ、ゆう」
掠れた男の声。苦しそうだ。
「はい? もしもし?」
「ゆう、え、……やく、そ」
ぶつん、と電話が切れる。なんだ今の、と少し怖くなった。受話器を置くと同時に外からガチャン、と音がする。あれは門扉の音だ、誰か来たのかなと外に出れば誰もいない。ふと郵便受けを見ると何か入っている。広げて思わず悲鳴をあげた。
「ひっ!?」
それはあの遊園地のポスターだった。ただしかなり古いものであちこち破けているし、何より血のような赤茶色で汚れている。
「なにこれ!?」
涙目で祖父母のいる祭り会場へ走った。そして必死に説明すると、意外にも祖父は落ち着いている。
「えっちゃん、写真撮ってみるか」
「へ?」
意味がわからずにいると祖父は自分のスマホを取り出してパシャリと一枚。それを見て、あー、とため息をつくと永美に見せる。そこには、永美の後ろに血まみれの男が立っていた。
「きゃあ!」
はっきり写りすぎている心霊写真に思わず悲鳴を上げたが、よくよく見ると落ち着いてくる。何故なら本当にはっきりくっきり、なんなら生きた人間かと言いたくなるくらい見事に写っているのだ。
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