第20話 モナ

 「おー、お客さんだ」


 モナークを連れて訪れた屋敷の一室。そこには椅子に座るニナのトゥルナがいた。

 トゥルナは元々学園に住んでいたが、学園長が死んだりと色々あったので現在はこの屋敷に住んでいる。だから別に屋敷内にいること自体は何もおかしな話ではないんだが、ここはニナの部屋だ。なんというか組み合わせとして珍しい。


 「て、なんだそれ」


 欠損していたはずのニナの右腕が存在している。明らかに素材が無機物だが。


 「義手だよ、義手。すごいっしょ!」


 腕の関節だけでなく手先までまるで本物のように動いている。


 「なるほど。だからトゥルナがいるのか。そんなのも作れるんだな、お前」

 「いやー、専門外なんだけどねぇ。魔器は作ったことあるからその応用で頑張ったよ」

 「魔器なのか?」

 「いんや? 魔核は入れてないから魔器とは呼べないね。まあでも魔力で稼働してる点は同じなんだけど」

 「ほー」


 魔物への興味が異常なだけの狂人かと思ったけど、意外と実用的なこともできるらしい。認識を改めることにしよう。


 「となると仕事復帰するのか」

 「うん! 私がいなくて大変だったでしょ? 結構良くなったから明日から頑張るよ。迷惑かけた分頑張るから期待してて!」

 「おう」


 ニナはオルタとの戦闘で右腕を失った。しかもそれだけではない。内臓と左足の内部までぐちゃぐちゃにされていた。オルタの能力によるものだ。あいつにわずかに触れられた結果、そうなってしまったらしい。おそらく変化しかけた状態だと思われる。変化し切るよりはいいだろうが、なかなか悲惨なことになっていた。


 「で、モナを連れてわざわざここにきた理由は?」

 「あー、それなんだけど……モナ?」

 「モナークよりもモナの方が愛嬌があるでしょ?」

 「確かに! いいね! モナっち、こっちおいでー」


 呼ばれたモナークはとてとてと歩いてニナに近づいていった。結果、ほっぺを好き勝手触られている。


 「やわらか〜」

 「うー」


 弱々しい声が上がっているが特に嫌がっている様子はない。トゥルナまでつんつんとほっぺを突き始めたが変わらずだ。モナークが人間に敵意を見せたことはこれまでないから問題ないだろう。


 「確かにモナって名前の方が人間っぽいしいいか……。お前はどうだ?」

 「なんでもいー」

 「ならモナで」


 というわけでモナークは今後モナと呼んでいくことになった。


 「そういやトゥルナはともかくお前は魔物に対してなんとも思わないんだな」


 トゥルナはそりゃそうだと納得できるが、ニナもモナに対して嫌悪感や敵意を抱いてる様子がないのは意外だ。年下の子供のように接している。


 「モナっちの見た目が子供っぽいしねー。そもそも私は魔物に対しての恨みと かないのが大きいかもしれないけど」

 「……?」


 納得はできた。けれどよくわからないことも出てきた。

 こいつはなんでワルキューレやってんだ? その疑問が口に出そうになったが寸でのところでやめる。他人の話を聞いたところで得がないからだ。


 「ほいで、結局ここに来た理由は?」

 「あー、服だ服」

 「服〜?」

 「そいつを外に出すことになったんだが、念のため手は拘束したままにしときたいんだと。かといって今の拘束具をつけとくのも目立つから袖の長い服が欲しいんだ」

 「なーるほど。その袖の中で拘束具をつけるわけだ」

 「そういうこと」


 拘束具はつけたいができるだけ目立たなくしたい。というわけで服を色々持ってるらしいニナの出番だ。


 「いいよー! なんでもあげちゃう! あとついでに髪も切っちゃおうか。前髪がちょっと長すぎるからね」

 「明後日までに頼む」

 「今からやってもいい?」

 「お前がいいなら」

 「オッケー。行くよ、モナっち」

 「うん」


 小さなモナの体を持ち上げてニナはクローゼットの方へと移動した。今は特にやることもないし別にいいだろう。


 「結局殺さないことにしたんだ。アネラは」

 「意外か?」

 「いや、そんなに。アネラは優しいから」


 服を物色してるニナを横目にトゥルナと会話する。こいつは案の定モナのファッションなんかに興味はないらしい。


 「外に行くってやっぱり学園?」

 「ああ。明後日から再開するらしいからな。モナの解析を頼む」

 「おまかせあれ。特殊な生まれ方をした魔物なんて調べ甲斐がある」

 「そりゃよかった」


 モナは普通の魔物じゃない。オレにわかるのはそれだけで、詳しいところはトゥルナに任せるしかない。狙ったわけではなかったが、これは敵を知るためのいい機会だ。


 「ボクとしては君の体もそろそろ調べたいけどね」

 「どうせ何もわかんねぇよ」

 「そんなことはないよ。アネラと契約して強くなったんだろう? 何かしらの変化はあったはずだ。わかることはきっとある。それに、まだ取引が完了してない」


 トゥルナの体を好きにしていい。その代わりに、オレはトゥルナの質問に答える。オレたちはそういう取引をした。だがルートたちに襲撃をされたせいでそれがまだ完了されていない。


 「あー、そうだ。お前それアネラに話したか?」

 「え、うん。したよ」

 「そのせいか知らないけど、許可がない限り女性とのせい行為を禁止するって命令されたんだよ。だからお前との取引ができない」


 数日前の話だ。アネラが急にそんな訳のわからない命令をしてきた。


 「ふふ、なんだそれ」

 「悪いな。多分お前にオレなんかとしてほしくなかったんだろ」


 トゥルナはアネラにとって家族のような大切な存在。対してオレは下層から拾ってきた訳のわからない男。そんな奴と家族との性行為を容認できないのは理解できる。


 「いやぁ、どうだろうね。意外と逆かもしれない」

 「は? 逆って?」

 「さぁ?」


 トゥルナの発言の意味がわからなかったが、反応を見るにさらに聞いたところで無駄そうだな。


 「ねー、ノアっちこれ外れないの?」


 どういう意味だったのかと頭を悩ませていたところで、能天気な声が鼓膜を揺らす。

 どうやらモナの拘束具が邪魔で服を着せられないらしい。そりゃ今つけてるのは両腕を同時に塞ぐ結構厳ついものだから当然そうなる。


 「わかった。今外す」


 能力は使うなと言っているので危険はない。拘束具を外し、結構長い間着せ替え人形にされていたモナをオレはただ眺めていた。

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