仮面の男

霞(@tera1012)

第1話

 いや、お巡りさん、だから、誤解なんですって。

 確かにこれが、公園を歩くのにはだいぶ奇抜なファッションだっていうのは分かります。でもしょうがないんですよ。俺には今、この仮面を外せない事情があるんです。


 いやだって、今日は絶好のお散歩日和じゃないですか。俺だって散歩くらいしたくなりますよ。それともなんですか、この国には、仮面をつけて道を歩いちゃいけないって法律でもあるんですか!


 ……すみません、取り乱しました。分かりましたよ。外しますね。ほら、指名手配犯とかじゃないでしょう?仮面も調べてくださいよ。ほら、なんでもないただお面でしょ? ……ただ確かに、少し、変わったところがあって。ちょっと顔に当てて、目のとこの穴からこっちを覗いてみてもらえます?



 ありがとうございます。これでお巡りさんが、この仮面の新しい宿主やどぬしです。


 あ、それ、外そうとしてます?その前に、俺の話、最後まで聞いてくださいね。

 俺がこの仮面を拾ったのは、数日前の夜でした。その時俺、だいぶ酔っぱらってて、どうして自分の手元にこんな気味悪い物があるのかわからなかったんですけど……とにかく、気がついたらこれを手に持ってて。そしたらこいつ、突然喋りだしたんです。「我は偽物の仮面なり」って。

 意味わかんないし、投げ捨てようとしたら突然眼が回って。気がついたら、この世の果てみたいなところにいました。目の前に、グツグツ泡をたててる沼みたいのがあって、中ではデカいミミズの化け物みたいのが、ウニュウニュ動いてました。水面は脂ぎってテラテラしてて、腐った木切れとか、緑色の藻みたいのとか、人の頭の骨みたいのとかが浮いてて、まあ、地獄のラーメンて感じでした。ラーメンから丼ぶりを除いたようだったですね。……うまいな俺。ウケる。


 そんで言われたんです。

「お前が一生、われを顔より外さずに生きるならば、お前の死と共にわれは本物の仮面となり、お前は天上の楽土への道が約束されるであろう。さもなくば、前の宿主やどぬしのごとく、お前もまたこの沼の中で、永遠に続く責め苦を味わうことになろう」


 いや、なんすかその二択。どっちもエクストリーム勘弁じゃないですか。……でも俺、意外と頭よかったみたいなんすよねー。

 ――思いついちゃったんですよ。こういう呪いとかって、何か、人にうつせるんじゃないかなーって。ちょっと前にサダコさんの映画みといてホントよかったっすよ。

 で、仮面さんに聞いたんです。そしたら渋々ですけど、教えてくれました。

「もしお前がわれを外したすぐ後に、われを手渡した相手が自らの手で、すすんでわれを身に付けるのならば、そのものをお前の代わりとしよう」


 で、めでたく一件落着と。

 いやーマジ助かりました。ホントありがとうございます。

 さっすが、人助けがお仕事のお巡りさん!





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

仮面の男 霞(@tera1012) @tera1012

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説