第7話

「たーまやあ」

 剣道部の部員達の掛け声に合わせて、千輪菊せんりんぎく花火が無数の光の帯を散らすと、しばらくして轟音が鳴り響き聖観橋を揺らした。

「うわ、華の島の花火はやっぱり迫力あるね。本当に大地が揺れてるみたい」

「うん……」

 美優が声をかけるが沙羅を浮かぬ顔を見せ、髪を撫でた。

「なになにどしたの沙羅、竜樹が来てくれなかったのが残念なのかなあ?」

「明日は会えないとか言ってたこと思い出した。毎年花火の日から当分顔を見せなくなるし、何かおかしい」

「ひょっとして、別の誰かさんと一緒なのかもよお」

「やっぱり気になる。私……華島神社に行ってくる」

「行ってらっしゃーい、恋する乙女」

 美優の陽気な掛け声とは裏腹に、沙羅は全身に嫌な悪寒が走るのを感じた。その気配を振り払うかのように、沙羅は履き慣れない下駄の音を鳴らしながら、島の奥にある華島神社へと走り出した。


「おじさん!」

 沙羅は華島神社本殿のきざはしを駆け登り、五色の龍の描かれたふすまを開けると、祈祷中の竜樹の父親に向かって叫んだ。

「さ、沙羅ちゃん。なぜここに?」

 驚いて振り向いた父親は血相を変えて睨む沙羅の姿に、祭壇にまつられた瓶子へいじを危うく倒すところだった。

「竜樹は?」

「出かけている」

「どこに行ったの」

「ええっと親戚に呼ばれて、神事の手伝いに行っている」

「嘘! 竜樹はお祭りの手伝いがあるって言っていた。嫌な予感がするの、何か危ないことしているんじゃない」

「嘘ではない、本当に重要なお役目を果たしているところだ。君の命を守るために」

「どういうこと?」


 父親は祭壇に顔を戻すと、さかきを手に取り語り始めた。

「私達の始祖は、天から舞い降り、この島をお作りになられた天嬢様に恋をなされた。そして天嬢様の命を脅かす厄災をはらうことを誓ったのだ。その時、天嬢様のお供をしていた五色龍ごしきりゅうの鱗をお守りとして授けられたという伝承があります。そのお役目を果たすのが今」

「その場所を教えて」

「それは教えられ……」


 父親が再び沙羅に視線を向けると、髪に挿したかんざしが金色の光を灯していることに気づき、目を見張った。

「そのかんざし……伝承には続きがあります。授けられた四色の鱗と金鱗きんりんがひとつになる時、五色龍は蘇ると。その時が来たのかもしれません。わかりました、教えましょう。竜樹は裏山の岩屋におります」

「岩屋、たしか羅刹窟らせつくつと呼ばれているところね。わかった」

 沙羅は足早に本殿を出ると、下駄も履かずに岩屋につながる崖道を走り出した。

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