第6話

 華の島の裏山に潜む岩屋。漆黒の闇から冷たい風が吹き出し、唸り声のような残響が聞こえていた。

 そこに複数の武装した神司かんづかさが集っていた。その手には各々おのおの、龍の鱗を模した祭具を携えていた。


「毎年晩夏のの刻、護龍の呪力が弱まり羅刹門らせつもんの結界が破れる。そこを狙って訪れる餓妖がようを撃退、この島をお作りになられた天嬢様をお護りするのが我ら四鱗の龍装隊のお役目。覚悟はよいな皆の衆、戦闘態勢に入れ」

 龍装隊の総隊長から命令が下されると、各部隊長はそれに応じた。


「先鋒月鱗隊げつりんたい、準備よし」

「次鋒火鱗隊かりんたい、準備よし」

「中堅水鱗隊すいりんたい、準備よし」


「そして大将銀鱗隊ぎんりんたい、竜樹」

「準備……よし」


「この島は我が国のへそだ。現世を惑わす餓妖界と繋がる羅刹門を閉ざすべく隆起した禍の島ができてから千五百年の時が経つ。今こそ餓妖を殲滅し、永遠とわの平安をもたらそう」


 岩屋の奥底からずるっずるっと岩場を這いずる忌まわしい音が聞こえてきた。月光が岩屋を照らすと、無数の異形の化け物が地上に向かう姿が映し出された。手足の見分けのつかない触手を持つ蜘蛛男、四方に向いた顔で辺りを見回す獣人、その容姿は様々であった。


「先鋒月鱗隊、攻撃準備」

龍鱗りゅうりん変武へんぶ月輪げつりんの矢」神司の手に持った祭具が、弧を描く弓矢に変化へんげした。


華撃隊かげきたい、月鱗隊の攻撃に合わせて花火を放て」

「承知」高さ十メートルはあろう五尺玉巨大打上筒うちあげづつの導火線に火がついた。


「撃てえ!」

 餓妖に向けて矢が放たれると同時に花火玉が打ち上がり、龍が昇るようにうねる一筋の閃光が漆黒の闇夜に浮かんだ。

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