第4話

「ただいま」

 華の島の最南端にある華島神社に帰った竜樹は、境内をほうきで掃いている宮司ぐうじの父親に声をかけた。


「おかえり、竜樹。今日は再び大邪祓おおやはらえの日が訪れたな」

「親父は呑気のんきなものだな、庭掃除とは」

「これはとても大切なことだ。元来この世に蔓延はびこけがれを祓うのが神職の仕事。こうやって普段から身の周りを清めることが重要だ。それでも邪気は溜まり、地中に埋もれた妖気は形となり浮かび上がる。その穢れを一掃するのが我ら一族の役目。こんな因縁深い神社の息子であることを後悔しているか?」

「いや、誰かがやらなきゃいけないことなのはわかっている。沙羅を守れるのは俺しかいない」


 ひゅうと父親は口笛を吹いた。

「沙羅ちゃんか、そうだな、本人には秘匿されているが現代の天嬢様は彼女だ。お前にとってはお役目より沙羅ちゃんのほうが大事か」

「なんていうか、俺はそのために生まれてきたんじゃないかと思っている。彼女の笑顔さえあれば、それだけでいい」

「妬けるな。聞いている私のほうが恥ずかしくなるぞ」

「今日こそ、けりをつける。来年こそ沙羅と一緒に花火を見るために」

「花火か……よもや大邪祓のための偽装工作だと気づく者はおるまい。闘いが始まれば、激しい火花と轟音が立ち昇る。それを皆に悟られぬように催していることとは思わぬだろう」

「みんなの平穏を保つには誰かの犠牲が必要だ。俺はその人柱ひとばしらになることをいとわない」

「格好いいねえ、さすが我が息子。そんなお前だからこそ、銀鱗隊ぎんりんたいをまかせられる」


 父親ははかまの袖から大きな祭具さいぐを取り出すと、竜樹に手渡した。

「龍の銀鱗。五色ごしきの首を持つ龍の一鱗いちりん。この神器じんぎがお前を護ってくれるだろう。使い方は……わかっているな?」

「ああ、そのために日々剣道で鍛錬している」

「まもなく花火大会が始まる。岩屋にはすでに龍装隊りゅうそうたいつどっている。お前も浄衣じょうえに着替え、向かうといい」

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