第2話

 夕暮れも近づき、竜樹が駐輪場で自転車を出そうとするところで、沙羅が声をかけた。

「竜樹! 家近いし、途中まで送っていってよ」

 沙羅は自転車の荷台にちょこんと座ると、竜樹の脇腹に手をかけた。

「沙羅……近いと言っても、お前は本島、俺の家は聖観橋せいかんばしの向こう側、華の島だぞ。それに二人乗りは校則違反だ」

「気にしない、気にしない。竜樹に聞きたいこともあるし」

「何?」

「走っている途中で話すよ」

「坂あるし、落ちるなよ? しっかり掴まっておけ」

「うん、腕回しておく」

 ぎゅうと背中に抱きつくと、竜樹の体がびくりと反応し硬くなるのを沙羅は感じた。


 海岸線に向かう急な坂を自転車で下り出すと、目の前には夕焼けが反射して、紅玉のようにきらめく水平線が広がっていた。沙羅はそれに呼応するように黄金色こがねいろの髪をなびかせた。

「いつ見ても綺麗だねえ、華の島の海。今日は天気もいいし、花火大会すごく楽しみ。竜樹は行かないの?」

「俺には大事な用事がある」

「えー、それ毎年同じこと言ってない? そんな大事なことなの?」

「一番重要なことだ」

「残念。私さ、今日は浴衣でも着ていこうかと思っていたんだけど。あのね、竜樹にも見てほしかったなあ」

 沙羅は頬が紅潮するのを感じながらも、勇気を出して一言を搾り出していた。

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