龍華恋夜

NEURAL OVERLAP

第1話

 眩しい日差しが学校の校庭をじりじりと焦がす、何事もない夏の午下ひるさがり。

 忙しない蝉の鳴き声を、体育館から聞こえる竹刀の打ち合いの音が掻き消していた。


 稽古が終わると、一人の少年が面を脱ぎ、顔から滴り落ちる汗をタオルでぬぐった。しかしタオルの隙間から見える彼の目からは、何かの気配を探るように鋭い眼光が放たれていた。

「いよいよ今日か」


竜樹りゅうき、今日夜九時からの島花火大会があるけど、剣道部のみんなで行くことにしたんだ。お前も行くよな?」

「悪いけど、俺はそういうの興味がない」

「お前なあ、エースだからってそんな偉そうなこと言うなよ。団体戦も近いし、これは部の親交を深めるための部長からの命令だ」

「……それなら剣道部を辞める」

「またそれかよ。ほんとお前は付き合い悪いよなあ」


 諦めて立ち去る部長を無視して澄ました表情の竜樹を、女子部員の沙羅は心配そうに眺めていた。

「なになにどしたの沙羅、竜樹のこと、ずっと見つめちゃってえ」

 沙羅の友人美優みゆが笑みを浮かべながら、沙羅の肩に手をかけた。

「えっ、別に……なんで竜樹はいつも花火大会行かないのかなあって」

「そうだよねえ、沙羅もそろそろ幼馴染の関係から卒業したいよね。一緒に手をつないで、花火とか行きたいよね」

「そうじゃなくて、毎年のことだから不思議なだけ」

「はいはい、でも沙羅の浴衣姿とか見たら、竜樹の気も変わるんじゃない?」

「そうかなあ? んー、考えとく」

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