いきなり押しかけてきたのは、元カノの妹でした!?

闇野ゆかい

第1話悪夢から醒めると悪夢が続く

「アンタなんて……大っき、らい。顔も見たくないッ!ささっと消えてッッ!」

目許に大粒な涙を浮かべ、唇を震わせ吐き捨てた嘉谷智夜かやちや

「……」

言い返せずに向かい合う嘉谷の前から姿を消した俺だった。

沈む夕陽に照らされた遠ざかる彼女の顔に浮かぶ表情は、悲壮感を纏わせているように見えた。

嘉谷智夜を残した教室には、彼女の悲痛な泣き声が響いている。

廊下を歩み続け、遠のく彼女の泣き声は確かに小さくなっているはずだというのに、耳の奥では今も響き続けていた。



♦︎♦︎♦︎♦︎


「はっ……はぁっはぁっ、ゆ、夢か……」

瞳が捉えるのは長く続く廊下ではなく、二年も住み続ける賃貸のマンションの俺の自室の天井だった。

大嫌い、か……

未だにあんな恋愛こいを未練がましく思ってるなんて、呆れた奴だよな……俺って奴は。

荒い息遣いの俺は呼吸を整えようと上体を起こし、ベッドを降りてリビングへと向かう。

キッチンの向かいに置かれた食器棚を開け、ガラスのコップを手に取り水道水を注ぐ。

コップを傾け、注いだ水道水を一気に飲み干しひと息吐いた。

嘉谷との交際が終わりそれ以来、恋人カノジョと呼べるお相手はいない。

友人にお誘いを受けて、赴いた合コンも無駄に終わった。

ダイニングチェアに腰を下ろしたと同時にインターフォンが鳴った。

無視を決め込もうとしたが、三度目四度目……とインターフォンの呼出音が鳴り続けた。

訪問者は、いないはずなのに……

訝しげに思いながらも玄関へと急ぐ俺。

玄関扉のドアノブに手を掛けながら開け、「はぁーい」と応待する。

「どーもぅ、ヒサにぃ。私をこちらに住まわせてくださいっ!」

玄関扉を開けると、幼い少女が小さく首を傾けながら愛嬌のある笑みを浮かべて、頼んできた。

「はぁ〜っ!?どちらさん、キミ?ヒサにぃって、もしかして俺?てか、いきなし住まわせろってなに言ってのアンタ?」

「あれぇ〜可笑しいなー、ワンちゃんは従順だってぇ〜聞いたんだけどな〜ぁ。違うのかーヒサにぃ〜」

少女が口端をゆっくり上げていき、小悪魔な笑みを張り付かせ、忌まわしい言葉を発する。

「なっ……そ、そそっその呼び方をっ……何故、アンタがッ……!?」

俺は身体から汗が噴き出しているのを感じながら、狼狽しながら訊ねる。

「ヒサにぃがよくご存知である方の妹だ、と言えば疑問は解消されますぅ〜?」

い、妹……言われてみれば、嘉谷と顔がどことなく似ている。

それに、従順やワンちゃんという単語は彼女からしか結び付かない。

「あぁ……あぁああぁ、そうか……でも……」

「だ、大丈夫、ですか……和泉、さん?」

上手く言葉が紡げず両手で頭を抱え、膝から崩れ落ちた俺だった。

俺の背中を片手で摩る彼女。


過去の数々のトラウマが過って、視界が歪んでいた。


乱れた呼吸が整い、正気を取り戻した俺は嘉谷の妹を住処に上げたのだった。






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