二、ふたたびの悪夢
1 確実に殺せ
全力で殴る。一気に凶器をふりおろす。
(殺せ)
誰とも知れない声が、俺の頭の中で響いた。
(確実に殺せ)
逆さに握りしめた懐中電灯を蛍吾の頭に叩きこむ。無防備な男は短く呻き声をあげ、反射的に身を縮めた。肩越しに首だけふりかえろうとした蛍吾の背中に俺は蹴りを入れた。
足をもつれさせた蛍吾が脚立を蹴り飛ばし、身体を半回転させながら壁際のソファに倒れこんだ。すかさず俺はソファを覆う布カバーの端をつかんだ。
視界を真っ白な布に覆われ、混乱しながらも蛍吾は座面に手を突いて起きあがろうとした。俺は蛍吾の身体にまたがると、再び懐中電灯をふりあげた。
薄暗い物置部屋に単調な殴打の音がくりかえし響いた。ぬかりなく俺は布カバーをさらに蛍吾の頭に巻きつける。これで返り血の心配がない。着替える手間が省ける。人を殺めながら、そんな冷静なことを考える自分がいた。
力を失った腕が、ソファから床へだらりと垂れ落ちた。
(どうする)
俺はソファから下りた。動かなくなった蛍吾の身体を見下ろし、息を整えながら考える。真っ白な布に包まれた姿はさながら悪趣味な前衛芸術のようだった。
(確認すべきだ)
死を、確実な死を。悪い電波でも受信したかのように、強迫的な衝動が俺の全身を支配した。屈みこむ。ソファから垂れ落ちる蛍吾の腕を手にとる。手首に指先をあて、脈をとる。薄暗い物置部屋で息を殺し、瞼を半ば閉じて、指先の感覚に意識を集中する。
びくりと蛍吾が肩をふるわせた。
(死ね)
俺は懐中電灯を握りしめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます