第34話 駆け出し冒険者それぞれのお祭り最終日

「あら、いらっしゃい。本当に友達を連れてきたのね」

 五人がやってきたのは、エルシーたちが試食した屋台。野菜たっぷりのクレープにウインナーや卵が入っていて、ソースとマヨネーズで食べる、はしまきを売っている屋台だった。

「約束したからね。五個ください」

「はいよ。そっちの顔色の悪い男の人が、エルシーの彼氏っていうことでいいのかい?」

 おばちゃんは生地を焼きながら、うふふと笑う声と熱々の鉄板に生地が焼く音が心地よく重なる。

「ぼぼぼぼぼくは、そんなんじゃありません!!!!」

「おばちゃん。からかかったら可愛そうよ。彼はオルちゃんの師匠よ」

「なんだ、そうなのかい。わたしゃてっきり、やっとエルシーにいい人ができたのかと思ったのに」

 おばちゃんは顔も上げずに、けらけらと笑いながら、はしまきを作っていた。

 ソースの焼ける香ばしい香りが漂い、焼きあがった物から順番に渡される。

「あら、美味しいわね。でもおやつっていうよりは食事よね」

 蝶子は熱々のはしまきにかぶりつく。

 バードナも蝶子の様子を見て、同じようにかぶりつく。

 ふんわりとした生地にキャベツの甘み。ソースとマヨネーズのコラボレーション。

「確かに美味しいですね。これは教会の皆にも教えてあげないと」

「わたしとオルちゃんとで試食して、意見を取り入れてもらったのよ」

 エルシーはドヤ顔でかぶりつく。

 熱々、ハフハフと五人がはしまきを食べている姿を嬉しそうに見ているおばちゃん。

「あれ? そういえば、あの子は来てないの? 長い金髪のお嬢さんは?」

「マリー? あ、そうだ! おばちゃん。夕方に取りに来るから、ふたり分残しておいて。お金は今、渡しておくから」

「お嬢さんたちの分? わかったわ。二人分ね。焼きたてを渡してあげるから、ちょっと早めに来なさいよ」

 おばちゃんは他のお客さんの注文に対応しながら、明るくオッケーしてくれた。

「師匠、ほっぺにソースがついていますよ」

「え!? どこですか?」

 オルコットはハンカチを取り出すと、背伸びしてバードナの頬を拭いた。

「あら、オルコットちゃんって、世話女房タイプなの?」

「オルちゃんは、一途に尽くすタイプよ」

「あんた、今、尽くされているでしょう。取られちゃうわよ」

「あ! そうだった。こら、バードナ。うちのお母さんを取らないで」

「誰がお母さんよ! ご飯抜きにするわよ!」

 エルシーたちのやり取りを聞きながら、はしまき屋のおばちゃんが大笑いする。

「エルシーは昔から変わらなくて、うれしいわ」

 その後、五人はりんご飴を食べたり、大道芸のピエロを見て笑ったり、的あてのゲームをしたりしてお祭り最終日を楽しんでいた。


 そして、お祭り最終日のお昼から、マリアーヌは婚約者候補が来ているパーティーに出ていた。

 数多くの男女。十代前半から五十代まで幅広い年齢。貴族や街の重要人物が集まるパーティー。

 オリステンやトリステンの服とは比べ物にならないほど、贅を尽くした色とりどりドレスの数々。それを引き立てるための紳士服。髪をきちんとセットして、きらびやかな装飾品を身に付ける。

 長女カイラが監修した料理はどれも手が込んでおり、味だけでなく見た目にも美しい品の数々。

 お酒の種類も豊富で、高価なものばかりだった。

 マリアーヌの母親メアリーが指示した花や飾りは煌びやかながら、落ち着いて無駄に主張をしていなかった。


 そんなパーティでマリアーヌは悩んでいる。

 数人の婚約者候補と話をした後だった。

 どの婚約者も年上の男性。本来ならば四女のハンナの婚約者になるべきはずだから、当然なのかもしれない。

「今度、私の主催するパーティに来てください」

「ぼくと船遊びをしましょう」

 男性たちはマリアーヌのご機嫌を取ろうと、ダンスを踊りながら、いろいろな遊びに誘う。

 その中でひとりの男性の言葉がマリアーヌを悩ませていた。

「冒険者をしているのですね。刺激をおのぞみであれば、狐狩りはいかがですか? 安全ですし、狡猾な狐を狩るのは楽しいですよ」

 わたくしが冒険者をしている理由。

 小説に出てくる勇者と姫に憧れた。

 お姉様のように生活のためでなく、リーダー兄妹のように目標があるわけでもない。

 わたくしがあのパーティの中で一人、孤立を感じていた理由がわかった気がする。

 わたくしが戦う理由がただの子供のわがまま。理念も信念もない。ただ刺激が欲しい貴族の遊びと言われても仕方が無かった。

 平和の鐘の皆はそんなことは一言も言わない。思ってもないだろう。

 だからこそ、みんながただただ眩しく、その中に自分がいないと感じていた。

 気づいてしまった。

 わたくしは平和の鐘にいる資格が無い。

 ああ、今日、みんなと会えなくて良かったのかもしれない。このまま、離れてしまったほうが、みんなの為なのかもしれない。

「それでは、お嬢様。皆様の所へ行ってきます」

 思い悩むマリアーヌに一言、声をかけてスティーブンは西の裏口_へと移動する。


「さあ、そろそろ本当のお祭りが始まるわよ。準備は大丈夫?」

「……」

「私の方こそ大丈夫かって? 大丈夫に決まっているじゃない」

「……」

「そうよ。もらった報酬の分は働くからね」

 ひと組の男女はゆっくりと沈みゆく、赤い太陽を眺めていた。

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