第12話 赤い果実

 五年後――


「春樹は無事に秋奈ちゃんに会えたかな……」

「秋菜が行方不明になってもう五年。見つかればいいけど」


 二人の両親は待ちわびていた。再び二つの世界が交わる時を。

 消息を絶った春樹と秋菜の手がかりが掴めるかもしれない。


 青と黒の世界は交わりを始め、その境界線から赤銅色が広がっていった。


 二つの世界の人々が再び相まみえ交流を始めた頃、二人の両親も彼らの姿を探していた。

 橋のたもとに差し掛かったところで、橋の上に立つ二人の男女を見つけた。

 それは見紛みまがうことなく、成長して大人となった春樹と秋菜であった。


「春樹!」

「秋菜!」


 二人の両親が駆け寄ると、春樹が笑顔で手を振ってきた。


「よかった、生きていたのね。もう会えないんじゃないかと心配してたのよ」

「父さん、母さん、久しぶり。なんとかやってこれたよ。ハルも一緒だ」


 ――ウォウ!――

 ハルが元気よく、尻尾を振った。


「それと……紹介したい家族がいる」

 よく見ると、秋菜が大切そうに抱いているものがあった。秋菜の手から両親の元に、それはそっと差し出された。


「僕達の子供、夏芽なつめだよ。ほら夏芽、おじいちゃん、おばあちゃんにご挨拶」


 秋菜の母親は赤子を受け取ると、ぎゅっと抱きしめ、祈るようにその赤子の額に唇を当てた。


「次元結合もうまくいきそうだ、みんなが一緒に暮らせるひとつの世界が戻ってくるよ……」

 春樹の父親は気が緩んだのか、目から一雫ひとしずくの涙をこぼしていたが、ハル以外、誰も気づいていないようだった。


 辺り一面が赤く染まる頃になると、中央に夕陽が見えてきた。

 赤い果実の実りを祝福するように、優しい黄金色こがねいろを灯していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

赤銅色の空に誓う NEURAL OVERLAP @NEURAL_OVERLAP

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ