第5話 公園の二人

 人通りが少なくなった街はずれの公園で、二人はブランコに腰かけた。ブランコを揺らしながら、しばらく沈黙が続いた。

 幼い頃の面影を残しつつも、成熟した秋菜の肢体のしなやかな線に、春樹は目のやり場に困っていた。


「……久しぶりだね」

「うん……春樹も元気だった?」


 …… ……


「あの!」 「あの!」

 話すタイミングが重なってしまったため、春樹はどうぞと手で差し伸べて、先を譲った。


「あの、何の挨拶もせずに別れてしまって……ごめんなさい」

「いや、秋菜はしょうがないよ」

「誰とも話せない私といつも仲良くしてくれて……うれしかった」


「違うよ、そうじゃないんだ。それは僕が……」

 “君をっ”と言いかけたところで、春樹は口をつぐんだ。


 …… ……


「その犬、どうしたの?」

「私病気でね、次元不適合障害って言って、このワンちゃんがいないと、黒の世界で生きていけないの」

「ふうん、名前は?」

「……ハル」

「その名前って……」


 …… ……


「こうしていられるのも、あと一日だね」

「うん」


「僕さ、父親の研究でわかったことなんだけど、特異体質でさ、青の世界、黒の世界、どちらにも適正があるらしいんだ」

「……」

「今度は黒の世界に行くのもありかな……なんて思ってるんだけど」

「……」

「どう思う?」

「……」


「秋菜は……寂しくない?」

「私は……」


 言えなかった、それはとても勇気がいる言葉だった。言った途端、すべてが壊れてしまうのが怖かった。


「僕は……秋菜と一緒にいたいなと思った」

「どうして?」

「それは……」


 春樹も言えなかった、そんなに簡単に言える言葉ではなかった。ただ気持ちを伝えたいという想いだけが積り積もっていた。


 細い糸に手繰たぐり寄せられるように、二人は顔を向け見つめ合った。

 お互いを優しく包み込む眼差しは、くすぐったい、胸がほのかに熱くなる感触だった。

 でもだからと言って、どうすることもできない……住む世界の違う二人。


「そろそろ家に帰ろうか」

「うん、たぶんお父さんが待ってる」

「いつか、みんなが一緒にいられる日が来るといいな」


「そうね……春樹と会えるのも、また五年後かな? その時は……もう私なんかに会ってくれないよね?」

 秋菜は寂しそうな笑顔で、春樹に問いかけた。


「たとえ五年後でも僕は必ず君に逢う。君を待っている」

「……ありがとう」


 ――ウォウ!――

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