第六、

 深い森の様な瞳に、折り紙製のギリシャ神話の怪物が、卓上に、徐ろに、横たえている。

 晴後は、女子たちの席に、遠慮なく腰を下ろした。

「何だよ晴後、やんのかコラ。紙相撲対応だぞ、折り紙で遊んでるんだよ、邪魔すんな」

「竜子の命日だろ」

 と、晴後は、落ち着き払って、云った。

 赤茶色の髪の鳶色の眼をした女子生徒は、

「飲み物でも買って来いよ」

 緩やかに差し出したその掌を、引っ込めた。

 晴後は、沈黙の裡に腰を浮かした。

 後ろの自販機、財布から紙幣を取り出し、自販機の投入口に入れようとすると、真横、黒い陰が、

金銭かね持ってないか」と、非常に残酷な響きの、低い声で言った。

 晴後は目蓋の瞬きの回数が稍殖えた。少し、緊張する。

「待って下さい、三つ買って下さい」

 晴後の耳許から小さく呟くように、声がした。

 紙コップにココアが注がれる。

「一つ遣るよ、ホットにしといた」


「楽しかったね、お父さん。また、遊ぼうね」

 竜子は、墓標を、後にした。朗読した原稿は、鞄に、詰めた。


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クライ暗い喰らい 小松加籟 @tanpopo79

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