第四、

 建築のざら附いた壁に身を擦り寄せた。

「応答しろ、蠍座のスコーピオン、応答しろ」

「メーデー、メーデー、目の前に美女が居る」

 美女は大型の鈍器を振りかぶり、蠍座の男の脳を揺さぶった。

「此処で終わるのか」と、蠍座の男は云った。


 はっとした。竜子は、グラスを手に取り、少し喉を潤した。唐突に、肩を叩かれた。

「もう、上がっていいよ」

 深い夜るだった。深夜徘徊にしては気遣いが在る。橋の上に、音楽を流している集団がいた。若いな、と竜子は思った。十代ぐらいの複数人だった。

「何してるの」この女、既に酔っている。

「音楽だよ。何か君、美人だね」と、紅一点の女はぶっきらぼうに答えた。

「よう、樹海に需要は買うかい、貝は買うかい。浴衣で花火は夏の宝物、男女で見物」

 竜子は、薄ら笑いを浮かべて、

「癒し察して星は月夜に漂う荒波、荒々しく暴風雨が北から来たから空騒ぎに酔う先客も藻屑と化した」

 ふと、夜空を仰ぐ。ながれ星に、仄かに願いごとを、した。霊に、反魂あれ。


 木作りの義手は、スピリットを飲む時に、微かに戦慄えた。

「危うかったな」気の触れた獣物は、……、おだやかに言った。

 鋼鉄のドク蜘蛛は、機銃の照準を賢しらに定めた。脳や心臓を狙う。銃弾は、頭部の装備を、剥がした。一発、装備が無ければ即死だったろう。少し笑えた。

 ドク蜘蛛の目の部分を狙い、撃った。互いの照準が稍少し外れた。

 脚部を狙う。姿勢を崩した処で、心臓を狙った次の刹那ーー、

「こいつはもういい。行こう!」

 気の触れた獣物は、叫んだ。


「黒いブラック.ボックスに上等の戦闘情報が取れた。君らの戦闘技術には、眼を見張る物が在る。もういっそ、君らに協力しよう」

 その白衣の技術者を、その純粋そうな瞳から、スイートアーモンドと名附けた。

 頁を繰る掌が緩い。紙の余白に、スイートアーモンドは娘を人質に取られており、奪還作戦で、戦死者複数、と書いた。数人の仲間を犠牲にして、自爆する人工知能、その破壊兵器を、手に入れた心理上の作用は、密かに記念品だった。戦闘に於ける生存率は、格段に向上した。

 気の触れた獣物は、

「近々、大規模な戦闘が在る。其に参加しないか」と言って、散弾銃の手入れを怠らない。

「戦闘に参加出来る要員は、三人のみ。其処で多少成果を出しても傭兵の給料は安い……」

 白衣の技術者は、扉付近から、外へ出ようとした。

「何処へ行く?」

 木作りの義手で遊びながら、低い声で、尋ねた。

 黒い箱の持ち主は、腕を捕まれた。

 二人とも、多少冷笑しながら、

「こんな夜るに、戦場へ赴く兵士の心臓は、簡単に冷たくなる。それでも行くか」

「戦闘情報が欲しい。もう少しで、君らを殺せるほどの破壊兵器に成長する、私の娘のような、大切なものだ」

「大切な娘に屈辱感を与えるようなら、幾ら頑張っても舟の奴隷なんだよ」

 竜子は、ノートから顔を上げた。気附けば、放課後だった。

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