第二、
地を割るような哄笑を、俺は上げた。
「人生の価値なんて、金貨一枚なんだよ。深い森の奥処に迷い込んで、梟に出逢った時、幾ら渡す?それとも、悪魔に魂を売って、朽ちない肉体でも手に容れようとするか」
脳裡に女の声が、収斂する。
「或いは未知の儘死ねば、殺してでも肉体を奪うか」
「起きてね、竜子さん」
涎の附いた落書きから頭を浮かせた。
「女の下着でも売ったらどうだ?」
主人公の台詞としては、少し破廉恥だな、と、竜子は思った。
鉛筆を持つ手は、止まった。
黒板を見れば、
(女は浴槽から下着姿で室に戻って来た。その上気した頬っぺたを、女はぷくっと膨らませた。)
竜子は、白墨を手に取り、
「女は発情した。」と、答えを書いた。
ふっと、隣りの男子が、
「不埒な……」と、呟いた。
水路の在る四阿で、甲冑の騎士は、銀の斧を、振り下ろそうとした。猟奇的な瞳の盗賊は、よく手入れされた銀の斧の波紋に、己れの横顔が写るのをちらりと見た。
「女の寝込みを襲うとは、卑怯な」
ナイフの柄を握りしめた。
「討伐隊の一人だ、おまえのような虫けらなぞ殺しても誰も文句を云わぬ。それどころか報酬を貰えるんだ。一つ聞くが、あんな堅牢な城から宝を奪ったのは、おまえ一人か?」
「一見して、アンタ、結構な手練れの騎士だな。あたしと組まないか」
「おまえ一人か?いいだろう、しかしおまえのような美形の仲間になるには、俺の素顔は、醜い……」
「アンタの死際には、その素顔を褒めてやるよ」
「おまえの口許が嘘を附かなければ、その不幸を避けるだろう。不幸を周りに振り撒けば、おまえの最期に、見えるだろう」
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