クライ暗い喰らい

小松加籟

第一、

 作家と心中したいからってその眠剤は真夜中に聴く。贋作の生命に一朱銀を出した。頑迷な精神の持ち主でも、痙攣する。壁に飾った絵画を鑑賞する度にはらわたが煮える。易しく言えば、腹痛に堪えぬ。野趣溢れる生足を制服の下から生やした殺人鬼の口癖とは、

「ねえ、死体から香水の匂いがすれば、素敵じゃない?」

 色白な膚に当たる甲斐性を買うのは英雄でも、怖気づく。実験動物の価値を低く見積もった釣りは、おまえの命が危うくなった時に、辞世の句を、おまえは忘れたか。それはほぼ次のようなものだった。

「常世の香りを嗅ぎ分けても嗅ぎ分けても命晴れぬ儘、彼世にも声枯らす」

 気の触れた獣物は、自らの頭蓋骨に散弾銃を向けた。

 俺は、生き死にを共にした。

「生きて」、女の声がした。

 退屈な警笛ホイッスルだ。しかし、俺は人質を取った。

「動くなよ。ぶっ殺してやろうか」

「解るか、虫けらめが」

 人質は俺の片腕を切り落とした。痛みは無い。

 酒はさかずきに注がれた。狂った獣物は、笑った。

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