家庭科は大嫌いだったけど
妹からlineが来た。
「家庭科は大嫌いだったけど、腹立つけど役に立ったわ」
添付されていたのは、布製のマスクの写真だ。
「ミシンの使い方とか、覚えてて、びっくりした。家では、雑巾くらいしか縫わなかったのに」
正直な妹からのlineに私は苦笑する。
「家庭科じゃなくて、嫌いだったのは家庭科の先生でしょ。家では普通に色々してたし」
「まぁね。そういえば、あの人はあの人で役に立ったかもしれない」
「どうやって」
妹の言葉は謎だ。あの家庭科の教師に関しては、授業中、お気に入りの生徒相手に依怙贔屓ばかりしていたことしか覚えていない。
「いや、だから、依怙贔屓とか意地悪とか、最低だし、大人になってもする人いてみっともないとかは、あの人で学んだ」
「ま、確かに。見苦しいというか、無様だ」
「中学の家庭科はまともな先生だったから、びっくりした」
妹からのスタンプは驚きのあまり、目が零れ落ちそうになっている。
「世の全ての家庭科教師があれじゃないでしょ」
「本当に」
私も妹も、家でそれなりに手伝いをしていた。既に自己流で身に付けていたのが面白くなかったのだろう。授業中に散々嫌味を言われた。懐かしくない思い出だ。
「あれ、家庭で経験する機会がない人にはよかったんじゃない」
家庭科の教師は嫌いだったが、教師と授業の内容を同一視してはいけないと私は思う。
「あの依怙贔屓が?」
心底嫌そうな妹の声まで聞こえてきそうな顰めっ面のスタンプに私は苦笑した。
「違う違う、そういう授業があることが」
誰もが家事を家で経験させてもらえるわけではないのだ。
「あの依怙贔屓に教えられたら、覚えるものも覚えないから、無理無理」
「それもそうだ」
「私、同じ班の子に教えてたよ」
「そういうことするから嫌われたのよね。私もあなたも」
「後輩には優しい先輩でありたいと思っております」
「でないと覚えないってことも学んだか」
「あー、無理無理。耳にも入らない。今思い出しても腹立つわ」
妹から送られてきたスタンプの主張が激しく、笑ってしまった。
「せっかくだから、マスク送るよ。使ってね」
「ありがとう」
数日後、届いたガーゼのマスクは、玄関にある。宅配便の受け取りのときに活躍している。
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