第21話 似た者同士は集まる


 恥ずかしがることもなくそう言った風宮に、俺は言葉を失った。


 なんで楓花が好きなコイツと俺が友達にならないといけないんだ?


 ただでさえ楓花と風宮が一緒にいるのを見てるだけで気分が悪くなるのに、今更コイツと友達になんてなれるわけなかった。

 風宮と二人で馬鹿話したり、遊んだりして笑い合う。きっと風宮と友達になって仲良くなれば、そんな未来が俺を待っている。

 頭の中でその光景を想像したら鳥肌が立ちそうだった。


「……冗談だろ?」

「冗談? なんで俺がそんな冗談言わないといけないんだよ?」


 ……どうやらコイツは本気で俺と話が合えば友達になろうとしているらしい。

 心底不思議そうにキョトンと呆ける風宮の顔が、それを確信させた。その表情に、俺は思わず引き攣った笑みを作っていた。


「冗談にしか聞こえないって」

「え? なんでだよ?」


 意味がわからないと風宮が聞き返してくる。

 そんな風宮に、俺は正直に話すことにした。どの道、俺の心情を抜いてもコイツとは友達になれるとは思えなかったから。


「俺が風宮と友達になれるわけないだろ?」


 俺がそう言った瞬間、風宮の眉が僅かに吊り上がったように見えた。

 突如、右足に鈍痛が走る。チラリと右を見ると、楓花が俺を軽く睨んでいた。お前はなにを言ってる、と言いたげに俺の右足を楓花の足が踏んでいた。普通に痛かった。


「なにその言い方? ちょっと悠一に対して感じ悪くない?」


 足の痛みに俺が耐えていると、立花がそう言って目を吊り上げていた。

 三人の鋭い眼差しを受けながら、俺は溜息混じりに応えることにした。


「勘違いさせたなら謝るよ。別に悪い意味で言ったわけじゃない」

「ならどう言う意味よ?」


 多分、立花は最初から俺に良い印象がないんだろうな。別に彼女からよく見られたいって思ってないけど、明らかに先程から俺に対する圧が強いような気がした。


「別に大した意味はないよ。これは俺たけの問題で、俺と風宮じゃ色々と合わないって思っただけだ」

「そんなの話してみないとわからないだろ?」


 そう言った風宮に、俺は首を横に振っていた。


「わかるだろ? だって俺と風宮だぞ? 俺はお前みたいに明るくてみんなと仲良く話せるような人間じゃない。俺みたいなタイプの地味な人間はな、クラスの端でひっそりと過ごしてるのがちょうど良いんだよ」


 そもそもの話だった。楓花の件を抜いて、俺と風宮は生きてる世界が違う。

 俺はコイツみたいに大勢の友達に囲まれて周りを笑顔にできるような人間じゃない。ずっと楓花だけを見てて、数少ない友達を大事にしてきた人間だ。

 好みや趣味も、きっと全然合わない。たとえ合ったとしても、価値観が絶対に合わないと確信できた。

 啓太が言ってたように、陰キャと陽キャは相入れない。そういうことだと思ったから。

 なぜか、足の痛みが増したような気がした。楓花? 足の力が強くなってない?


「そういうこと言うなよ」


 風宮が不満そうに顔をしかめる。しかし俺はわざとらしく肩をすくめて見せた。


「変なことじゃないって、よく言うだろ? 似た者同士は集まるって?」

「だからなんだよ?」

「気の合う人間ってさ、勝手に引かれ合うんだよ。誰になにか言われたわけでもないのに自然と仲良くなって、気づいたら一緒にいる。友達って、そうやってできるもんなんだよ。だから今の時点で俺と風宮が友達になれてないってことは、きっと俺達は合わないんだよ」


 同じクラスにいるのに三ヶ月間も片手で数えるくらいしか話したことがない時点で、友達になれる気はしない。

 と言っても俺の場合、楓花の件があるから風宮と極力話さなかっただけだか……

 まぁどの道、風宮と友達になりたくなかったから、友達になりたくないと断る理由としては良い理由が話せたと思う。


 程よく空気が悪くなったのは櫻井に申し訳ないと思うが、これも風宮が変なこと言い出したのが原因だ。恨むなら彼を恨んでくれ。


「……でもわざわざ風宮がそう言ってくれたのは嬉しかったよ」


 そして最後にフォローはする。ここで俺も本当は友達になりたかった的な雰囲気を少しだけ出しておく。そうすれば、そこまで悪い雰囲気にはならないだろう。


「櫻井、雰囲気悪くして悪かった。わざわざ奢ってもらったけど、このまま俺が居たら空気悪くなると思うから移動するよ」

「え? 別に移動しなくても――」

「他のみんなに悪いし、移動した方が良い」


 これで俺が席を立ってどこかへ行けば終わり。こんな話をされたら風宮達も俺に構わなくなるに決まってる。

 相当偏屈なこと言ったからな。むしろ少し嫌われたかもしれない。風宮に嫌われるだけならなにも気にならなかった。


「佐藤、俺の質問に正直に答えてくれ」


 俺が席を立った時、風宮がそう言って俺をじっと見つめていた。

 急にどうしたのかよく分からなかったが、とりあえず断るわけにもいかないと思った俺は僅かに首を傾げながら「別に良いけど?」と答えることにした。


「ゲームはするか?」

「え……普通にするけど?」

「好きなジャンルは?」

「それ、今聞く必要あるか?」

「ある。だから答えてくれ」


 風宮がなにがしたいか本当にわからなくて、その質問に困惑する。

 しかしどうにも答えないと移動させてもらえない気がした俺は、よくわからないまま答えていた。


「RPGとアクション」

「格ゲーは?」

「最近たまにやる」

「……好きなカレーの辛さは?」

「まだあるのかよ……辛口だけど?」

「目玉焼きにはなにをかける?」

「……は?」


 急になに言ってんだコイツ?


「良いから答えろって」


 俺が困惑してると、なぜか風宮が催促してくる。

 思わず周りの三人を見ても、彼女達も俺と似たような反応を見せていた。

 しかしそれでも風宮はジッと俺を見つめて、早く答えろと圧を掛けてきた。

 そんな風宮に、俺は渋々と素直に答えた。


「塩」

「……良し、わかった」


 はなして、今の意味不明な会話でなにがわかったのか?

 俺がそう思っていると、風宮が小さく頷く。そしてどこか覚悟を決めたような真剣な表情で、彼は席から立ち上がっていた。

 そして次の瞬間――唐突に風宮はわけのわからないことを口走っていた。


「佐藤! 今ので俺は確信した! 俺、お前と絶対に友達なるからな!」

「はい……?」


 意味がわからなすぎて、変な声が出た。

 今の会話で、なにがどうなったらそんな言葉が出てくるんだよ?

 その理由を小一時間くらい本気で問い質したくなった。

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