第22話 差し出された手
「……聞き間違いだよな? 俺と風宮が、なんだって?」
「何度だって言ってやるッ! 絶対に俺はお前と友達になってやるからな!」
そう言い放って、俺に人差し指を突きつける風宮の姿は……まるで少年漫画の一コマみたいだった。そんな傍から見たら恥ずかしい姿でも、風宮がすると様になっているのが少しだけムカついた。
どうやら俺の聞き間違いではなかったらしい。風宮の言葉を理解した俺は、自分でもわかるくらい眉間に皺が寄っていた。
「お前……さっきの俺の話、聞いてなかったのか?」
「聞いたよ! お前の話はちゃんと聞いた!」
それならお前は馬鹿だよ。そう思って、俺は深い溜息を吐き出していた。
「それなら俺と友達になるなんて言わないだろ?」
もし俺の話を本当に理解しているのなら、あんなことをコイツが言えるはずなかった。
お前と友達になりたくない。俺達は絶対に友達にはなれない。遠回しに俺からそう言われていることを理解していれば、どう考えても出てこない言葉のはずだった。
「違う! お前は間違ってる!」
しかし風宮は、なぜか俺の話を否定していた。
「確かにお前の言う通りだ! 友達ってのはなろうとしてなるものじゃない! いつの間にか、気づいたら友達になってる! だから同じクラスでもずっと話せなかった俺達は友達になれなかった!」
「……え? なら俺は間違えてないだろ?」
「間違ってるに決まってるだろ!」
俺の淡々とした言葉に風宮が即答する。そして続けて、彼は叫んでいた。
「仮に友達になる方法がそうだとしても! 俺達が友達になれない理由にはならない!」
「お前、自分の言ってることが矛盾してるってわかってないのか?」
「だからなんだよ! そんなのこと! 今はどうでも良いんだよ!」
感情をむき出しにする風宮に、俺は心の底から困惑していた。
一体、コイツはなにを言ってるんだ?
俺の話を理解しているのなら、俺と風宮が友達になれないことを風宮自身もわかってるはずだ。
それなのに、どうしてコイツはさっきから意味不明なことを口走ってるのかわからなかった。
そう思って、俺が呆気に取られている時だった。
「俺はカレーなら辛口が好きなんだよ!」
「は……?」
「好きなゲームのジャンルはRPGとアクション! 最近は格ゲーにハマってる!」
「風宮? 急にどうしたんだ?」
更なる困惑が、俺に襲い掛かった。
唐突に、また風宮がわけのわからないことを叫んでいた。
そしてまた、風宮は叫んでいた。俺には全く意図がわからない言葉を。
「俺が目玉焼きにかけるのは塩一択だ! どうだ! これで満足か⁉︎」
「え……なにが?」
思わず俺が聞き返すと、なぜか風宮が悲しそうな顔を作っていた。その表情は、まるで俺が理解していないことを悲しんでいるような顔だった。
「わからないのか⁉︎ 俺の好みとお前の好みがビックリするくらい一緒なんだぞ⁉︎」
「だから?」
「――ッ! 俺達は気が合うんだよ! 絶対、俺達は友達になれる! だからそんな悲しいこと言うなよ!」
「……悲しいこと?」
そんな風宮に俺がそう答えると、今度は泣きそうな顔になっていた。
なんだ? この流れ?
なんで俺が風宮に憐れまれてるんだよ?
そう思った瞬間、俺はハッとして視線で周りを見渡した。
気づくと俺達と一緒のテーブルに座っていた櫻井や立花、そして楓花の視線が風宮に奪われていた。
そして先程から風宮が急に叫んでいた所為で、周りの生徒達の視線が俺達に向けられていた。
いつの間にか食堂は静かになっていて……風宮の叫びだけが、この場に響いていた。
その光景は、まるで青春漫画の主人公が悪役に正しいことを諭すワンシーンのようだった。
「なんでまだわかんないんだよッ‼︎」
わからないから本気で困ってんだよ。
そう答えようとしたが、俺が言うよりも先に風宮の口が動いていた。
「俺は……俺はッ! 俺達が友達になれないなんて悲しいこと言うなって言いたいんだよ! たとえ友達になる方法が普通とは違っても、俺達は……友達になれるだろ!」
そして声を震わせて、風宮はそう言っていた。
俺達の話をずっと聞いていたのか周りの生徒達が風宮の叫びが終わった途端、揃って頷いていた。その中には泣きそうになる奴もなぜかいた。
そんな光景を見て、俺は本当に小さな声で呟いていた。
「……そういうことかよ」
完全に周りの空気に置いていかれてる俺は、その空気の中で風宮の叫びを思い返して、ようやくコイツの考えを理解した。
俺が良い理由として話した風宮と友達になれない理由。それをコイツは、俺の意図と全く違った受け取り方をしていた。
どうやらこの主人公たる風宮悠一は、単純に俺が可哀想な奴だと思っているらしい。
卑屈になって、素直に友達を作れない。そう俺が思い込んでいると、風宮は本気で思っているんだ。
だから俺の好みを聞いて、自分と好みが一緒だから気が合う。それを風宮が一生懸命叫んでいたのだと、ようやく俺は理解した。
今にも泣きそうな顔で俺を見つめてくる風宮に、俺は自分でも驚くほど素直に思った。
純粋過ぎるだろ、コイツ。
変に人を疑おうとしない風宮の素直過ぎる人柄に、俺は唖然としていた。
そんな俺に、思う存分叫んだ風宮がテーブル越しに手を差し出す。
そして俺に手を差し伸ばした風宮が満面な笑みを作っていた。それは小さな子供みたいな、純粋で無垢な笑顔だった。
「佐藤! 俺と友達になろう!」
そんな顔で、風宮がその言葉を告げた。
周りの生徒達が感動してるような表情を浮かべる。
その空気は、まるで主人公が新しい仲間を迎える瞬間を待ち望んでいるように見えた。
きっとこれが漫画やゲームの話なら、俺が嗚咽を漏らして風宮の手を握るんだろうな。
誰が握るかよ、お前の手なんか……!
差し出された風宮の手を見つめて、俺はそう思うしかなかった。
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