未来が見える女

 未来視ができると分かったのは子供の頃。いろいろな未来のことを言い当ててみせるとすごいすごいとみんなが私を褒めてくれた。でもそのうち受験には一体どんな内容が出るのかとか、競馬の結果を知りたいとか私を利用しようとする人間が近づいてきたのでこのことを口にするのはやめた。

 未来視が自分でコントロールして見れるわけでは無い。感情が不安定になると断片的になってしまう。だから極力リラックスして過ごすようにした。クズみたいな男はどんな人生が待っているのかわかったからこそ大学で知り合った男とは結婚しなかった。地味だけど私が大切にしてくれて絶対に浮気をしない、借金やギャンブルなどもない男を選んで結婚し子供を産んだのはよかったけど、辛かった。


 別に子供に問題があったわけじゃない。イヤイヤ期も誰だってあるしわがままだっていうし反抗期だってある。それは誰もが通る道だったけど私には向いてなかった。

 先のことがわかるといっても何十年も先のことがわかるわけじゃないのでわかるのはいつも二、三年先の事だけ。この子は立派に育つのだろうか、私の手を煩わせないだろうか。そんなことを毎日毎日考えていたら先の未来のことがわからないことに対して苛立ちを覚え、鬱のようになってしまった。未来視も不安定になっていく。

 快適な未来の自分の人生のために便利な能力だったはずなのに、数十年先のことがわからないのがイライラする。


 そんな時、見てしまった。娘が殺される未来。殺しているのは私……鏡に映った姿は確かに私だ。今持っているお気に入りのワンピースを着ている。確かに子育てが辛い時もあるけどまさか殺すなんてそんなこと。

 見てしまったからにはどうするかを考えないと。このまま娘を殺す未来を迎えるのか、それを回避するのか。未来を見るというのはその未来にならないように変えることだってできる、私だけができること。


 私が選んだ道はもちろん娘を殺さない未来。妊娠した時の喜びを覚えてる、出産したときの幸せを覚えてる。この子に何か問題があるわけじゃなくつらく苦しいと感じているのは私だけでそれは殺してしまうほどのことではない。


 だから私は娘を愛そうと思った。完璧にやらなくていい、手を抜いたって構わない。パーフェクトを求めて自分を追い込んでも良い事なんて何もない。夫や実家の協力をもらったっていいじゃないか。幸せになるために結婚して子供を産んだ。それを壊してしまうような事は絶対にやりたくない。


 そのはずだったのに。どうして娘はいなくなってしまったんだろう。私が殺す未来は回避できたが、行方不明だ。


 川に行くのは少し嫌な予感がしたが未来視で確認できなかった。軽度の鬱のせいだ。大丈夫、わたしがしっかり見ていればいいだけ。娘の川遊びがしたいという願いを叶えたかった。

 なのに目を離した瞬間だ。夫からお昼どこかで食べて帰る? と聞かれて近くのファミレスを検索してた時。気がついたら娘がいなかった。慌てて周囲を探した。いたずらっ子な性格だったから家に戻ってるって事は無いかと.急いで家に戻った。もちろん子供の足で行けるわけないのはわかってる、それでもどんな可能性も全てつぶしておきたかった。

 案の定家には誰もいない。泣きそうになりながら夫に電話するとご近所の人に娘を見なかったか声をかけるだけかけておいて、周囲も探してみてと言われた。事故にあってないかなども確認しなくては。


 昔から思う、どうして私は不安定なタイミングで未来を知ることしかできないんだろうと。過去を知ることができたら行方不明になった直後にすぐに行動して、手がかりを見つければ娘を見つけられたかもしれないのに。


 その後娘は見つからず心身ともに弱っていった。心のどこかではもう生きていないんだろうなと思いつつそれでも諦めずに探している。

 そんな時久しぶりに見た未来視。犯行の様子を事細かに書かれたおかしな手紙。まるで私が犯人であるかのような文面だが、こんなに当日の事を詳しく知ってるなんておかしい。しかも回避した未来を、だ。


私は抗うつ剤を飲もうとしてやめる。だめだ、薬に頼るな。意を決してリビングへと向かった。

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