超能力者は万能じゃない

aqri

過去が見える男

行方不明の◯◯ちゃん、あれから一年。手がかりなし、誘拐か事故か。


 このニュースは世間を騒がせている。休日に家族で川遊びに来てふと気がつくと六歳の女の子がいなくなっていた。家族はすぐに警察に通報、五百人体制で付近の捜索が行われているがいまだに何も手がかりがない。

 川辺ということで防犯カメラ等もなく目撃者もいない。川に流されて溺れたのかという見方もあったが誘拐も視野に入れて大規模な捜索が行われた。


 はじめこそ大変なことが起きたと世間は同情したが、心ない言葉も多い。六歳の子をどうして親は見ていなかったのか、キャンプ場のような人が集まるところではなくそんなところに行くから事故が起きるんだとか。家族は一体何をやっていたんだというような批判の声も少なくなかった。

 過剰なマスコミの取材と世間からの一定のバッシングに両親は疲れ果てメディアの前には姿を見せなくなった。それがさらに批判を加速しこんな話が出るようになってしまった。


 犯人、親なんじゃないの。


 そういう声には父親は厳正に対処し逮捕者まで出る騒動となる。結局手がかりがないまま一週間が過ぎ一ヵ月が過ぎ、今日で一年。事件を風化させたくないと事件が起きた日に親はチラシを配るなど手がかりを探している。

 バッシングもあったが早くに見つかってほしいという意見も多く、この事件は人々が忘れそうになった頃に再びニュースで取り上げられていた。

 そんなニュースを僕は複雑な心境で見守る。なぜならこの事件の全貌が僕にはわかっているからだ。



 昔から突然過去の出来事がわかることがあった。それは何かに触ったり写真を見たり、今回のようなニュースで概要などを細かく知ると突然その過去の場面が頭に入ってくる。最初は何なのかわからなかったけど、サイコメトリーという単語を知り、僕はこれなんだろうなと思った。

 子供の頃は嬉しかった。僕のこの力は人々の役にたつんじゃないかと思ってた。でも誰も信じないし本当に過去のことを当てると気持ち悪いこいつ、という感想を抱かれるようになった。


 考えてみれば当然だ、誰にも言いたくない隠したいことを僕は全てわかってしまうのだから。これは他の人には言わないほうがいいんだなと学んだときにはすでに遅く、地元では僕に関わろうとする人間はいなくなっていた。両親もそうだ、人に迷惑ばかりかける嘘つきな娘を持つ親として孤立してしまった。早々に家を出て実家とは連絡をとらず今は一人で暮らしている。


 ニュースが細かく情報を伝えるたびに僕はその情報から過去の画像が頭に浮かんだり夢で見るようになった。

 かわいそうなことだがこの女の子は既に死んでいる。それも殺人だ。骨や遺留品が見つかればDNA検査や鑑定などしてもらえるのだが、残念ながらそれを証明することができない。それに僕が言ったところで何も解決しない。また嘘つき呼ばわりされて終わりだ。何せ証拠がないのだから。

 昔から思う、どうして僕は過去の事しか知ることができないんだろうと。未来を知ることができたら事件を防ぐことだってできたかもしれない。何年も行方不明になって見つからない子供を探すために協力してほしいと願う親は多いかもしれない。でもこういうのは信頼関係が大事だし過去の経験に疲れきっている僕は、それをやる気にはならなかった。


なぜなら、行方不明になっている中にはそれなりの確率であるものなんだ。

親が犯人だということが。


 今回の件もそう。父親は何も知らないが犯人は母親なんだ。育児に疲れていたのだろう、子供を叱る様子や心療内科に行く様子が見えた。いなくなったと騒いでいる時は自分の車のトランクに入れていた、気絶している娘を。

 ニュースによると家に帰っているかもしれないから確認してくると言って自分だけ運転して家に戻ったそうだ。距離もあるのに六歳の子が家に帰れるわけない不自然だという指摘もある。それはそうだ、家の中で殺害するためだったのだから。犯行現場は風呂場だ。


 旦那も気が動転していたし自分の妻が本人だなんて思わない。必死に探し回っているときは何時何分に具体的にどんな行動があったのかなど覚えてない。妻が家に戻った時間は三十分だったかもしれないし一時間だったかもしれない。警察への受け答えは正確なものとは限らない。


 どういう仕組みなのかわからないけど、僕の能力は常に情報が最新にアップデートされていく。事件が起きた時も女の子が殺される場面しか見えなかったけど、ニュースであれからどうなったという情報を見るたびに違う場面が見えるようになる。

 偽装工作する母親の姿。遺体をどう処理したか……母親とは思えないあまりにも残酷な遺体の処理の仕方に吐き気を覚える。遺体が見つからなければ事件性を証明することができない。女の子の体は粉々に砕かれたので見つけることができないのだ。


 時間が経つごとに僕に見える情報が増える。不審に思われない程度に自分なりにも調べた。聞き込みをしたり、支援団体に入ったり。

 少し情報収集期間を持ってから行動を、と思っていた。事件から一年、もう十分だ。行動を起こすしかない。僕はパソコンを立ち上げた。

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