第2話

 さっきの凄い悲鳴はえーっと。SM的なすごいプレイをされたとか、彼氏さん怒ってたしオシオキってことで。絶頂だった、と思えば違和感はない。違和感は。


 いや違和感しかない!!


 違う違う、焦るな自分。まだ焦る時間じゃない。SMプレイだったとしよう。静かなのは……痛くて、もしくは気持ち良すぎて気絶した。うん、これなら……。


「どう処分しようかなコレ」


 処分!? ちょっと、考えてる途中で違う要素ぶっこんでこないで! 処分は~アレだ、プレイに使った道具!


「とりあえず包丁洗うか」


 あああああマジでプレイに使った道具だったああああ! 意味通じちゃった! いやそもそも処分とやらは本当に道具の話かな!? もっとでっかい別のものじゃなく!?

 SM、SM、SM! 私の知らない世界のプレイをしてた人達! ほ、包丁デスカ。ずいぶん危険なプレイをされたのですね……(震え声)

 彼女さん静かだ。こういう時の女の人はほら、マグロって言うよねマグロ女。えーっとマグロさんは大丈夫かなあ、なーんて。


 マグロ。そういや駅の人身事故でマグロ拾いという隠語が……あががががが! 何でこんな時のそんな単語思い出すんだよお!


「めんどくせえなあ、バラさねえといけないじゃん」


 荷物を、だ。きっとそう。同棲するために引っ越してきたから荷物をあけようとしている。決してバラバラにしようとしているわけではない。


ガタン、パタン。シャアアアアア。


 シャワーの音っぽい。風呂場行ったっぽい。洗い流しているのは汗だ、他の体液は流してないはずだ。ヤった後シャワー浴びるのは普通。


ガツン ガッ ボキ シャアアアア 


 いろんな音が聞こえる……ぶつけたり転がったり洗い流したり。なんかいろいろ想像しちゃうけど風呂入ってるって事にしてもう。なんか、何回も行ったり来たりしてるけど。いやもしかしたらキッチンとか。小腹が空いたから何か作ってる説。


「で、き、る、かな★ でっきーる、かな★ アイちゃん一人で、でっきるかな~」


 何教育番組の主題歌うたってんだよおおおお! サイコパスすぎんだろ!!! しかもそれ料理の番組! 意味通じる事やるんじゃねえよ!


「包丁を持ったら左手は軽くグーにして、猫の手だよ。そしたらうまく切断できるからね」


 料理の魔人が切断なんて言うかあ! 私が子供のころ見てた番組だからやめろお! 三代目アイちゃんに謝れ!!


「細かく切断したら、ごみ袋にポイ! 上手にできました~」


 上手に捨ててんじゃねえか! 捨てる気満々だから仕方ないけど!! 何で教育番組の進行みたいに進めんのこいつ!? 頭おかしいよ!

 やばいゲロ吐きそう。もうやだ、全然眠れる気がしない。想像して気持ち悪いのもあるけどいろいろ精神的に振り切れそう。

 その後もお料理(?)は続き、静かになった頃。私は意識が飛んだ。たぶん気絶した。


 社畜の朝は早い。寝坊なんてしない。いつも通り五時に目が覚めた。


「……吐きそうでござる」


 昨日の酒が残ってるんだ、そういうことにしよう。水を飲み、少し考える。ぜえええったい、会いたくない! もういい、出勤しよう。早くに行って遅くに帰ってくれば鉢合わせないだろ! 音をたてないように支度をして玄関を開ける。



 がちゃ、と扉を開けて外に出た時お隣さんと遭遇した。向こうも扉を開けて出て、私を見て一瞬睨みつけてくる。いや睨むと言うより無表情って感じだ。すぐに彼氏さんはニコリと笑って声をかけてきた。


「どうも」


 どうもって顔してないけど。目、笑ってないけど。


「あ、おはようございます……」


 私が少し緊張した様子なのがわかったのだろう。彼は困った顔をした。


「えっと、ここに住んでる子と付き合ってて」

「ああ、そうなんですね」


 お隣さんは女子大生。知らない男が出てきて不審に思った、と考えたらしい。まあ確かに顔を合わせるのは初めてだ。


「すみません、夕べうるさくなかったですか? ちょっと彼女と盛り上がっちゃって」


 ああ、まあ騒がしかったね。ハッスルしすぎ。あんたハッスルしすぎだよ、頭ん中どうなってんだ。お前起きてた? って確認してるじゃんこれ。


「夕べですか? 気が付かなかったなあ。私お酒飲んで寝ちゃうと起きないから。夕べもブラック課長に嫌味言われて、やけ酒飲んで寝ちゃったし」


嘘は言ってない。酒も飲んでたしちゃんと寝た。たぶん二時間くらい。


「そうですか、大変なんですね」


当たり障りない会話をしてじゃあ、と男はアパートを出る。


 私は今とてもドキドキしてる。心臓がバクバク。やばい、顔引きつってなかったかな? 声うわずってなかったかな? 挙動不審じゃなかったかな? 初めて見る彼氏さん、超イケメンだ。芸能人? って思うくらいに。まあそんなことはクソどうでもよろしい。

 緊張した。ドキドキが止まらない。だって彼氏さん、手にでっかいエコバッグ持ってる。そりゃもうパンパンだ。身長150センチ代の人を入りそうなくらいパンパンだ……。



 鉢合わせちゃった。どうしよう。顔見られたし。ドキドキが止まらない。緊張で吐きそうでござる。どうしよう、こんな早朝でも110番ってやってるんだろうか。9時から対応とかだったらどうしよう。

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