2022/12/08 第8話
馬刷間
「妹の来美が、以前こちらにお邪魔したようなのですが……」
というからには馬刷間さんのお姉さんらしく、まぁ確かに顔立ちなどはよく似ている。沈んだ表情でため息をつきながら応接室に入ってくるところなど、フェイク動画を持ってきたときの来美さんを思い出して気が重くなった。またああいうものの持ち込みじゃないだろうな……。
「ええ、いらっしゃいました」
特に隠すようなことでもないので、先生はにこやかに対応している。千香さんは応接室のローテーブル越しに、
「来美は、こちらの動画を見せに来たんじゃないですか?」
と言いながら、スマートフォンで例の動画を見せてきた。
「ああ、確かにこれだったと思います」
先生が画面を覗き込んでうなずいた。「私のところでは対処が難しいと言ってお引き取り願ったと思うのですが、どうかなさいましたか?」
「先生がそうおっしゃったのは――この動画がフェイク動画だから、ではありませんか?」
千香さんはそう言って、スマートフォンを仕舞った。「妹に恥をかかせないように、そういって取り繕ってくださったんでしょう?」
うわぁ、すごくいい方向に解釈してくれてるな……おれは申し訳ないような気分になってきた。
先生は「私は感じたことを申し上げただけですよ」などと澄ました顔で言っているが、言外に(そうです。なぜなら本物の霊能力者なので)と言っているような絶妙の態度と表情である。相変わらず演技力がすごい。
「じゃあ、先生はやっぱり本物の霊能力者だったんですね……」
千香さんが呟く。すみませんニセモノですとは言えないので、おれは申し訳ないなぁと思いながら黙って立っているだけである。と、うつむいていた千香さんが突然ぽろぽろと涙をこぼし始めた。
「ニセモノだったなら……どうして……!」
「馬刷間さん、どうかなさいましたか?」
先生がソファから腰を浮かしかけた。と、千香さんがわっと顔を覆って泣き始めた。
「妹が――来美が死んだんです! 自殺なんかするような子じゃないのに、瑠香奈ちゃんと同じところから飛び降りて……! せ、先生、この動画はただのフェイク動画なんですよね? 呪われたなんてこと、ありませんよね!?」
えっ、何それ。怖。
おれは今すぐ家に帰りたくなった。
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