2022/12/07 第7話
「人が死んでるってことはこれ、あれじゃないすか! やっぱホン……」
本物、と言いかけたところで、いきなり先生がチョークスリーパーをかけてきた。なかなか鮮やかな手付きだがそんなことを言っている場合ではない。
「いだだだだ!」
「バカ柳! だからフェイクだっつってんだろ!」
先生はおれを解放すると、「順番が逆なんだよ!」と怒鳴った。
「……ふぁ?」
「おま、まじで……いいか? まず新泥瑠香奈がなんらかの原因で自殺した」
一通りキレ散らかしたせいか、急に脱力した先生は普通に説明を始めた。
「ニュースにもなって報道されてるんで、新泥嬢が死んだのはまず事実ということにしておいていいだろう。馬刷間来美がフェイク動画を作ったのはその後なんだ」
「はぁ……あー! なるほど! 動画のせいで死んだわけじゃないんすね!」
「ようやくわかったか……」
先生は「はぁー」とでかいため息をつくと、つかつかと歩いて事務所に戻ってしまった。おれは慌てて後を追った。
「で、でもなんでわざわざこんな動画なんか作ったんすかね? 友達の自殺まで利用したってことでしょ?」
「知らん。バズネタ作りじゃないか?」
「わざわざ先生に鑑定の依頼してまで?」
「心霊動画に箔がつくとでも思ったんじゃないか? それか、俺がインチキだって暴きにきたかな」
「……それほっといていいんすか?」
「ほっとけほっとけ。さっき、最悪訴訟になるぞ~って匂わせたら逃げてっただろ」
「ああ……いやでも、もっとはっきり言ったらいいんじゃないすか? フェイク動画持ち込むんじゃねーぐらいの勢いで」
「お前、庭に誰かいたの知ってたか? 応接室のすぐ外」
先生は自分のデスクに腰かけながら、さらっとそう言った。
「は!? まじすか?」
「足音とかしただろ」
先生は当然のように言うが、おれにはまったく聞こえなかった……この人、めちゃくちゃ耳がいいのだ。霊感はないが、その聴力と演技力、コミュニケーション能力、見た目――ありとあらゆるスペックを利用してインチキをやり通す。それが禅士院雨息斎なのである。なぜこれほど高スペックでありながらインチキ霊能力者なんかやってるのか、おれには理解できない。
「高圧的に出たとこを音声かなんか取られて、おかしなイチャモンつけられたら面倒だ。穏便に帰ってもらえてめでたしめでたし」
「はぁ~。しかしアレっすね、そこまでしてバズりたいもんですかね……」
「バスりたいんじゃないか? ま、もう二度と来ないでいただきたいね」
そう言うと先生はサラッとデスクワークに戻り、メールの返信でもしているのかカタカタとキーボードを打ち始めた。この切り替えの速さは凄い……。
で、おれも雑用に戻ったのだが、この一件、残念ながらこれでは終わらなかったのである。
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