2022/12/04 第4話

 見てしまった。

 見たくないものを見てしまった……。

 心臓がバクバク言っている。これ大丈夫か? 思った以上にガッツリ映ってたけど……見ちゃって大丈夫だったのか?

 ちらっと横を見ると、先生は真面目な顔をしているが至って平気そうだ。さすがインチキとはいえ霊能力者である。

「こんな感じで……この後ちょっとケンカみたいになっちゃって、あたし先に帰ったんですけど……」

 馬刷間さんが言った。

「喧嘩なさったんですか」

「はい、瑠香奈が『来美は部長と付き合ってる』ってきかなくって。部長ってうちの映画部の部長のことなんですけど、全然そういうんじゃないんです。そりゃよく話はしますけど、それはあくまで部活での用事があってのことなんで。あんなにケンカ腰になるってことは、瑠香奈、部長のことが好きだったのかな……」

 馬刷間さんはうっと声を詰まらせた。「この後、瑠香奈ぜんぜん部活に来なくなっちゃったんです。あたし、これがちゃんと話した最後になっちゃって……」

 そう言ってまた泣き出してしまう。親友とケンカ別れになってしまったら辛いだろうな……しんみりしていると、先生がじろりとおれを見た。

 めちゃくちゃ冷ややかな一瞥だった。

 おれは思わず我に返った。先生は一瞬の間に穏やかな笑みを顔に浮かべ、泣いている馬刷間さんに箱ティッシュを差し出したりしている。

「なるほどね、とにかく動画は拝見しました。うーん、これはまた……」

 先生は腕組みをした。「厄介ですね」

「そうですか……」と馬刷間さんが呟く。

「どうしよう……瑠香奈のお葬式の後から、よくあの子の夢を見るようになったんです。あんなふうにあたしを指さすんです。まるで次はお前だって言われてるみたいで、あたし怖くて……!」

 あんなものが映った動画がある上にそんな夢を見るなんて、さぞ嫌だろう。先生は「うーん」と言いながら腕を組み、改めて「馬刷間さん」と声をかけた。

「は、はい」

「大切なことですから、率直に申し上げましょう。この動画について、私ではおそらく役に立たないと思います」

 馬刷間さんは両目を見開いて、ぽかんとした顔のまま「は?」と言った。おれも危うく同じことをやりそうになって、慌てて堪えた。

「なぜかといえば」先生はいつになく神妙な顔で続けた。「私はこの動画から霊的な手ごたえを感じることができないからです」

 

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