2022/12/05 第5話
珍しい。いつもはハッタリ全開の先生が、こんなことを言うなんて――おれが驚いてボンヤリしていると、突然馬刷間さんが立ち上がった。
「えっ、えっ、じゃあ先生はこの動画が、にせものだって言うんですか!?」
取り乱し始めた馬刷間さんは、大声で訴え始めた。
「ほ、本物です! この女だって、撮ったときには絶対にいなかったんです! 本当にっ」
「まぁまぁ、ちょっと落ち着いてください」
先生は反対に、落ち着いた声で馬刷間さんをなだめる。こういう時、声のいい人間は得だ。馬刷間さんも少し落ち着いたのか、ふっと口をつぐんだ。
「私はこの動画が偽物だと言っているわけではないんです。ただ、ここに映っているものと波長が合わなさすぎる。こういうことは個人差があるんです。誰か合いそうな同業者をご紹介できればいいんですが……」
「せ、先生では駄目なんですか?」
「そうですね……とりあえず、普段通りの厄払いをしてみましょうか? この動画の霊自体を祓うことはできなくても、馬刷間さんに影響が及ぶのを防ぐことはできるかもしれない」
「そうですか……」
「いやぁ申し訳ない。どういうわけか、こういった映像に映り込むような手合いとは、あまり相性がよくないんですよ」
などと、先生はペラペラしゃべり出す。「たまに持ち込まれはするんですが、取り扱いは不得手ですね。それに、中には明らかなフェイクを持ち込む人もいますし……」
その瞬間、馬刷間さんの肩がぴくりと動いた。先生は話を続ける。
「本物の霊能力者かどうかを試したいんですかねぇ? あんまりしつこいので訴訟になりかけたこともありますよ。営業妨害ですからねぇー」
先生の口からは相変わらずスルスルと言葉が出てくる。が、おれは知っている。
確かにこういう事務所だ。怪しい動画が持ち込まれることはある。が、少なくともおれが先生の助手になってから「フェイク動画がらみで訴訟になりかけた」ことは一度もないのだ。
「で、どうなさいます? 厄払い、していかれますか?」
先生に改めて聞かれると、馬刷間さんはびくっと体を震わせた。「だっ、大丈夫です!」
「おや、そうですか?」
「は、はい。あたし、ほかの人を当たってみることにしますね! お邪魔しました!」
馬刷間さんはさっきまでの湿っぽさはどこへやら、さっさと挨拶を済ませると、ばたばたと事務所からいなくなってしまった。あんなに走って大丈夫だろうか?
「お気をつけてー」
玄関から見送った先生は、馬刷間さんが家の敷地から出て行ったのを確認するとドアを閉め、大きなため息をひとつついた。
「しょーもないフェイク動画だったな、アレ」
「そうだったんすか!?」
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