2022/12/03 第3話
三人で顔を突き合わせてスマートフォンの画面を見るのはいくらなんでも窮屈だから――とかなんとか言っておれは場を外そうと目論んでいたのだが、先生はおれに「柳くん、そこのモニター持ってきて」と無情な指示を放った。応接室の隅に置いてあったモニターとスマホをケーブルでつなぎ、あっという間に大きな画面で動画を鑑賞する準備が整ってしまった。
気を遣ったつもりなのだろうが、正直やめてほしい……呪いの動画が見やすくなってしまったじゃないか。霊能力者(自称)の助手をやってはいるが、おれはそもそも怖がりなのだ。
モニターに動画が映し出された。大学構内の建物なのだろうか、白を基調とした内装を背景に、馬刷間さんと同い年くらいの女の子が映っている。この子もなかなか可愛い子だ。
察するに、彼女が亡くなった親友なのだろう。ちょうどそのとき、馬刷間さんが「この子が亡くなった
モニター内蔵のスピーカーから、馬刷間さんの声が聞こえてきた。
『主演女優の新泥さんでーす。撮影は順調ですか~?』
『なに? 撮ってんの? ふふふ、今のとこ順調でーす』
新泥さんが振り向いて笑う。楽しそうに話している様子はほほえましいというか羨ましいというか、こんなキラキラした学生生活っておれの人生にあっただろうか……おれの青春って一体……などと考えてしまう。いや、一応おれもまだ二十代だし、馬刷間さんとそんなに年齢は違わないはずなのだが――と、そんなことは置いておこう。ともかく今は動画だ。見たくないけど。
小道具のたぐいだろうか、新泥さんと呼ばれた女の子は、一抱えほどある段ボール箱を運んでいる。ふたりは片側にいくつもドアが並ぶ廊下を話しながら歩いていたが、途中で新泥さんが『この辺だっけ?』と言い、馬刷間さんが『うん』と答えた。どうやらこの辺りで撮影をする予定のようだ。
新泥さんが持っていた箱を下に降ろし、その姿勢のまま『そういえばさ』と言った。
『なに?』
『部長と付き合ってるってほんと?』
『……は? なにそれ?』
画面の中の馬刷間さんが驚いたような声を上げ、画面が上にずれた。
「ここ……」
ソファに座っている馬刷間さんが呟いた。
まだ下を向いている新泥さんの向こう、二人が歩いてきた廊下の奥に、人影があった。
長い黒髪を垂らした、赤いワンピースの女だ。一目で「おかしい」とわかった。
異様に背が高いのだ。天井に頭がつきそうになっている。
女はだらりと下ろしていた右腕を上げ、画面の向こうからこちらを指差した。
『ねぇ、まだ撮ってんの?』
新泥さんの声がして、動画は終わった。
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