義妹の生着替え

 辛うじて眠れた。

 とはいえ、正確に言えば三、四時間ほどしか眠れなかったけど。いかんな、寝不足は敵すぎるぞ。


 朝六時。


 砂夜はまだ眠っているようだ。

 教師である僕はもう準備をしなければならない。


 身嗜みを整え、朝食の準備を進める。


 とはいえ、コーヒーとキャロリーメイトかバナナの二択しかないのだが。



 少しすると、砂夜が起きてきた。



「おはよう、先生……」

「おはよ、砂夜。朝、食べるか?」

「う~ん……わたし、朝は食べないからなぁ」


「おいおい、朝を食べないと力が出ないぞ」


「だって太っちゃうし」

「太るって、砂夜は十分細いじゃないか」

「油断すると直ぐに体重増えちゃうからね。昼と夜だけで十分」



 女の子にはいろいろあるようだ。

 砂夜も着替えるようで僕は背を向けた。背後では衣擦れ音が響く。たぶん、今僕の背後で制服に着替えているんだ。


「……」

「先生、わたし今……下着姿」

「いいから、早く着替えて!?」


「あ~、先生ってば生意気ね。砂夜の下着姿、見たくないの?」

「朝から刺激が強すぎるって」


「じゃあ、後ろから抱きつく」



 冗談だろ!? と思った時には遅かった。砂夜が抱きついてきて、僕の後頭部に柔らかいものが触れた。


 ま、まさか……これは。



「……ちょ、砂夜」

「三秒だけね」


 その通り、一瞬で離れていく砂夜。ほんの僅かとはいえ、僕の後頭部は世界一幸せだった……。


 それから、ようやく制服に着替えてくれた。



 * * *



 準備を終え、アパートを出た。

 今日は青天で雲ひとつない。

 爽やかで快適な空気を感じる。


「途中まで一緒でいいか」

「え? 先生、それ冗談でしょ? もちろん、わたしが先生の腕に抱きついて行く」


「おいおい、それではカップル認定されちゃうよ。大問題だ」


「いいじゃん。わたし、先生を他の誰かに取られたくないし、恋人として周知されたい」


 本気の眼差しを向けられ、僕は根負けしそうになった。けど、心を鬼にした。この生活を続けるのなら、恋人と認識されるだなんてダメだ。


 先に僕のクビが飛んでしまうよ。そうなれば生活もできなくなる。それだけは避けねば。



「学校では普通にしてくれ。これは先生としてのお願いだ」

「……で、でも」


「そうしないと同棲生活は終わりだぞ」

「それは嫌! 分かったけど、浮気は絶対しないでね」


「大丈夫だ。僕は砂夜以外の女子とは、それほど仲良くはない。あくまで教師と生徒として接しているだけだから、安心してくれ」


「そ。ならいいけど」


 ホッとしたのか砂夜は、僕の腕に飛びついてきた。……あぁ、もう。見られたらまずいんだけどなぁ。


 学校まではまだニ十分ほどあるけどさ。


 時間帯のせいか、まだ周囲に学生は疎ら。見られる心配も……ないか。



 芙蓉高校に到着。

 僕は職員室へ。砂夜は二年の教室へ向かう。


 時間までは職員室でスケジュールを設定していく。……こんなところだろう。


 僕は基本的に国語・地理歴史を担当している。そういうのが昔から好きで、向いていたからだ。


 さて、そろそろ二年の教室へ向かうか。きっと砂夜が待っている。いや、他の生徒も。


 教師として、僕は今日もがんばっていく。

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