バスタオル一枚の義妹

 砂夜との生活が始まった。

 当然ながら、まだ不慣れでどうしていいのか、なにもかも未知だ。これから一緒に住んで考えていくしかない。


「さっそくシャワー浴びよっかな」

「下着とか持って来てるのか」

「もちろん。……あ、先生、もしかして意識しちゃってる?」


 にやっと笑う砂夜は、スクールバッグから派手な下着を取り出した。砂夜のヤツ、あんなの付けているのか。


 わざとらしく見せつけてくるし、目のやり場に困るって。


「し、してないし。シャワーなら遠慮なく使ってくれ」

「え、興奮すらしてないってこと?」


 少しキレ気味の口調で砂夜は近づいてくる。あ……まずい。


「訂正する。僕は砂夜に――」

「ダメ、遅い。先生って本当にデリカシーのないおバカさんね。でも、馬鹿な子ほど可愛いから良いけど……。うん、絶対に興奮させてやるんだから」


 なんか知らないけど許してくれるらしい。とりあえず、息子を破壊されなくて良かった。


 砂夜は、なにか決心してシャワールームへ向かった。

 いったい、なにを企んでいるやらな。


 * * *


 パソコンで仕事をしたり、動画を見たりしていると砂夜が戻ってきた。バスタオル一枚で目の前を通り過ぎ、僕は思わず何もない方向を向いた。


「さ、砂夜、なにしてるんだ!」

「なにって着替えるの。バスルームって脱衣所ないし、こっちで着替えるしかないじゃん?」


「そ、それはそうだけど……」


 少しだけ視線を向けると、砂夜の体は火照っていた。肩とかフトモモが大胆に露出している。


 くっ、これ以上は見ていられない。下半身的な意味で。


「どうしたの先生……興奮しちゃった?」

「……さ、砂夜。耳元で囁くなっ」

「耳、赤いよ……先生」


「……そ、それ以上は」

「根性なし♡ ホント、先生ってよわよわなんだから♡」


 た、耐えろ僕。これは色んな意味でまずい。理性とか全てが吹き飛びそうだ。このままでは間違いが起きてしまう。


 僕は先生。生徒に手を出すわけには……いかない。例え、義理の妹であろうとも。だが、砂夜はそう思っていない。どんどんエスカレートしていく。


「さ、砂夜……だ、抱きつくな!」

「先生、女の子に抱きつかれたくらいで慌てちゃって……信じられないくらいザコですね♡」


「頼むから着替えてくれ」

「じゃあ、興奮してくれた?」

「ああ、したした。物凄くしたからッ!」


「ならいい。わたしで興奮しなかったら、もっとイジメるからね」

「……はい」


 これには従う他なかった。

 僕は、砂夜の言う通り“よわよわ人間”だ。特に女子から攻められると弱かった。


 小学生の頃に女子からイジめられた過去があったから、女性恐怖症なのだ。


 でも、義理の妹である砂夜に対しては、ある程度は普通に接することができた。


 僕はこんな情けない体質を直す為にも教師になったわけだが――。


 これでは逆戻りかも。


 この日は、初日ということもあり僕はベッドで添い寝は遠慮した。


「先生……」


 パジャマというか、学校指定のジャージに着替えた砂夜は、ジトッとした目で僕を睨むが――僕に心の準備はできていない。無理なものは無理だ。


「悪い、今日だけは許してくれ」

「別に気にしなくていいのに。ほんっとダメダメなんだから……」

「いくらでも罵ってくれていいが、僕はテコでも動かん」

「仕方ない。眠いし、ベッド借りるね」


 眠たそうな表情で梯子を上っていく砂夜。ベッドに潜り込んでいった。……ふぅ、やっと解放された。


 僕はゲーミングチェアに腰掛けて、溜息を吐いた。


 やっと眠れるのか。

 いや、緊張で寝れるか分からない。


 早くも砂夜の寝息が聞こえてきていた。寝るの早ッ! の〇太くんか!


 突っ込んでいる場合ではないな。


 明日から学校がある。

 早く寝ないと。


 せめてもの抵抗で僕はヘッドホンをして、お気に入りのBGMをかけた。これで少しは緊張が解れる――はずだ。


 ……そうでもないかな。


 砂夜が近くにいるだけで、僕はドキドキしっぱなしだ。久しぶりに会った義理の妹。疎遠だった妹のはずなのにな。


 僕はこんな生活を求めていたのかも。

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