第11話「鬼神」
『ごるるる……』
こひゅーこひゅーと、虫の息のオーガさん。
『へっへっへ♪』
一方、すっげードヤ顔のポンタさん。
…………うん。
にこッ
高橋ニッコリ、ポンタほっこり─────……
すぅぅ、
「───『へっへっへ♪』じゃねぇからぁぁぁぁぁぁぁぁああ! 頼むから、今すぐ戻してこいッ! 今すぐー!! ナァウ!!」
『わふん♪』
あーもう!!
わかってねぇしコイツぅ!
『わふん♪』じゃねぇわ!!!
ど、どうしたらええねん!! こんなん解体するのだけでも大変だぞ?
しかも、まだ生きてるしぃぃい!!
……そのうえ、なんだこのオーガ?
肌が真っ黒で、妙な『刺青』がなくなくない? なくなく、なくなく、なくなーい??
あれ?
ちょっと待てよ、この特徴ってたしか───……。
どんなときでも、
スマホ、ポチー
「……………………あ、これだ。えっ?? こ、これって──────ユニークモンスターってやつじゃ??」
嘘か本当か、某大型掲示板に乗っていた情報。
『ようつべー』に投稿されたオーガの正体について考察するというスレによると……。
それによると、
『色違いのモンスターは亜種と呼ばれるもので、一般的な種類よりも強力で……。
通称、レアモンスターと呼ばれる。特徴は、通常個体よりも、めっちゃ強い。そして、凶暴。』
「え? そうなん…………??」
さらに───。
『そのなかでも、「刺青」入りのモンスターはユニークモンスターと呼ばれる個体で、
非常に稀に出現することのある、超々強力個体だ。』とあった。
「い、刺青って………………」
チラッとオーガを見ると、バッチリ刺青いり。
…………おっふ。
『──なかでも、軍隊と交戦経験のあるものは「
へ、へー……。
ユニークモンスターですかー。
しかも、ネームド……………………。
……ハハっ!
「いやいや、ないない───」
二つ名って、アンタ。あるわけないやん……。
だって犬小屋だよ───以下略
『わふっ??』
「……食べねーよ!」
なんなのポンタ君?!
『
……え? オーガ食えってか?
人間に
「……食えるか馬鹿ッ!! 気持ち悪いわ!!………………つーか、くっさ!! うわ、このオーガくっさぁぁあ!!」
今さらながら強烈な体臭だ。
それによく見れば、な〜んか身体中に古傷はあるし、
……な〜〜んか、迷彩柄の服を繋ぎ合わせた腰蓑をつけとるし……。
「……ん?」
あれれ、あの血だらけの迷彩に「USA」って書いてない?
それに、トリコロールカラーのロシアっぽい国旗マークも見えるんだけどー……。
「って、においの元これかよ?! なんだよ、この『
くっせーーー!!
大量の血を吸ったと思しき、雑なつくりの鉈はまさに鉄板……! いや、鉄塊だった。
「うっわ……これ腐敗臭がすごい。ちょ、ちょぉ……勘弁してくれよ」
しかし、さすがにこれは通報したほうがいいか?
そういや、目力さんに週明けに電話しろっていわれてたな。
「うーむ……。瀕死だけど、このオーガを見ればさすがに危険性を知ってくれるかな? いくら犬小屋サイズとはいえ、中にこんなのがうろついてるダンジョンが庭にあるのはさすがに怖い……」
どうやってポンタがこれを持ってきたのは不明だが、
間違いなく、犬小屋ダンジョンから持ってきたものに違いない……。
だって、ここ以外にポンタがいけるダンジョンなんてないしね。
「え~っと、……履歴履歴」
あった、これだ。
う、うわー……俺の履歴、この人しかねーわ。
俺ってば、友達もいないのな、しくしく。
プップップップ───プルルル。
がちゃ、
『はい、ダンジョン管理局の目力です』
「あ! 目力さんですか!? 実はその───って、ちょぉぉぉおぉおおおおおおお!」
『がふっ、がふっ♪』
なにやってんの?!
「なーーーーーーーに食ってんの?!」
『わふん??』
ちょ~~~っと、目を離したすきに、瀕死のオーガに食らいつくポンタ!
やめて! もう、やめたげて!!
見てらんない!……オーガさんのHPは0よ!
……つーか、グロぉぉお!
めっちゃグロぉぉおおおおお!!
オーガぴくぴくしとるやん!!
「もういい、さっさと殺してあげてぇぇぇぇえええ!!」
『───も、もしもし? もしもーし、高橋さーん??!!』
スマホがやかましいがそれどころじゃない!!
「ちょ、ポンタどけ!」
あかん。
……もう見てらんないッ!
『がるるるるる!』
「がるるじゃない! ほら、骨々ガムだぞー」
ぽいす
『わふん♪』
チョローーーーーーい!
オーガの生肉より、骨々ガムの方がお好きらしい。
ポンタが、ガツガツとガムを噛んでいる隙に、先日オークを仕留めた
「南無三!! すまんな、せめて、苦しまずに逝け─────────って、
バキョンッ!! と、あの
「うぉわ! 刃が、刃がぁぁぁ!」
……な、なんちゅう硬い皮膚じゃ!
折れて跳ね上がった刃が、すぐそばに、バイーーーーーーンンン!! と、突き刺さり冷や汗を流すも、
高橋は、苦しむオーガが見ていられずなんとか
とはいえ、
あ、そうだ。
「──こ、これだぁぁあ!」
……そこで目についたのが、オーガの持っていた巨大な鉈。
オーガサイズだが、人間でも持てないことはなさそうだ。
「うわっ……重ッ」
重いけどなんとか───。
見た目からして、明らかに人間の持つサイズではないが、
それでも、なんとか構えることはできた。
それに、サイズに比しては軽いといえば軽いのだろう。
人間が持つと、まるで『
許せオーガ……!
せめて───。
苦しまずに……。
「──せぇぇぃ!!」
逝けッ
『ごる──────』
鉈がぶつかる瞬間、一瞬、奴と目が合ってしまった。
歴戦と苦戦と交戦とを繰り返してきた
戦闘狂の最期───……。
見えるはずもないのに、
その一瞬で、奴の目に様々な戦いの軌跡が
映った気がした……。
『ゴルァッァアアアア……!』
ダンジョン奥地で竜と戦うオーガ
ダンジョンに侵入してきた人間と
激しく交戦するオーガ
それらの死体を積み上げ咆哮するオーガ
そして、
そして───。
……あり得ないほどの速度で飛び回り、
手下を次々に倒しながら突き進む
小さな獣の姿───『へっへっへ♪』
『ぐるぁっぁぁああああああああああああああああああああああ!!』
オーガは恐怖し、
生まれて初めて敗北し、
そこで──────捕らわれた。
「せぃ!」
───ゾンッ!!
『ごふぅぅ……』
高橋の一撃が見事にオーガの首を切り落とす。
ドクドクと溢れる血が庭にしみこんでいき、オーガの瞳から……光が消えた。
「ふ、ふー…………。よかったぁ。あのままだとスプラッタ映画ばりに良い子に見せられない場面になるとこだたぜー」
『わふわふッ!』
一方ポンタは骨々ガムを咥えて大喜び……。
その横で巨大な首がゴーロゴロ。
「わ、わー……。今日は一段とグッロー……い。ほんっと、前の会社で解体とかしてなかったら、絶対吐いてたな」
人間慣れちゃうものだもの。
でも、グロイ物はグロイ……ん?
「なんだこれ?……石??」
大量の血と肉片に交じって、チカチカと光るものが一つ。
首を切り落とした時に体内から零れ墜ちたようだが…………。
『もしもーーーーし! 高橋さん?! いい加減にしないと怒りますよ?! 公務員だからって、下手に出てると───』
あ、やべ!!
「す、すみません!! ちょ。ちょっとトラブルが起こりまして」
『はぁ? 電話中でしょ! もー!!…………で、なんですか? 大体アナタは土曜日に電話してくるし、ワンギリするし、ちょっとこっちも暇じゃないんですよ!』
「すみません、すみません!!───あの、ところで、ダンジョンから魔物が出てきた場合ってどうすればいいんですか?」
『はぁぁ? そんなことあるわけないじゃないですか! いいですか? 魔物はダンジョン内の特殊な環境にのみ生息できるんです。連れて出た場合は、息切れをおこしたようにして死んでしましますよ。……そもそも、生きた魔物を外に出すのは重罪なんです! わかるでしょうが、そんなことぐらい!──あれは生態系破壊しかねない生物なんですからね!』
で、で、ですよねー。
「でも、その───も、もし、その……か、仮に連れだしたら……どうなるんです?」
『はぁ?!……そんなもん、逮捕されるに決まってますよ。昔、ロシアの学者がダンジョン素材で檻を作って生物を出そうとしたことがありましてね───輸送中の列車で暴れ出して大惨事を起こしたことがあるんです。その魔物はすぐに息絶えましたが、その短時間で出した被害で、死者50人ですよ?! 50人!……よって、国連のダンジョン研究所より要請があって、今となっては各国が重罪認定してます。日本だとまぁ──────下手したら懲役ですね。……罰金だけでも数百万ですよ』
「ちょ」
懲・役?!
&
数百万?!
「す、数百万て……」
『で──────なんですか? まさか犬小屋───ぶふっ! あの犬小屋からモンスターでもでました? まぁ、あのサイズじゃそんなことありえないですけどね』
「ソーデスネー」
出てます。
オーガが出てます。
しかも、でっかい奴……!
……っていうか笑うなし!!
『あー……一度お伺いしましょうか? 忙しいんですけどねー。……ほんっと、忙しいんですけどねー』
「いーえー、ナンデモアリマテーン。しっつれいしま~~す」
ガチャ、ツーツーツー。
や、
やっちゃいましたよ……。
……生きて出しちゃいましたよ!
「うぉぉぉおお、やってしまったぁぁぁ!」
───犯罪ですよ、メヂカラさん!
くっそー迅速にこのオーガも処理せねば……!
「…………ポンタ君や」
『わふ??』
へっへっへ♪
……すぅ、
「───犬小屋禁止ぃぃぃぃいいいいいいいい!!」
『きゃうん……!』
※ 同時刻 ※
アメリカ
バタバタバタバタ!!
「室長!! 室長!!」
バッターーーーーーンン!!
中佐の階級章をつけた若い軍人が息を切らせて走りこんできた。
「……どうしたアンドリュー中佐。……せめてノックはしてほしかったんだがね」
准将の階級にいる初老の男性が眼鏡を拭きつつ、落ち着いて話した。
彼の胸に光る記念賞と勲章───そして、各種特殊徽章の数々から、現場たたき上げの優秀な軍人だとわかる。
「す、すみません! あ、あまりに急なことでして」
「物事は急に起こるものだよ───で、なにかな? 落ち着いて話したまえ」
「は、はい! 実は先ほど、深層等監視室のほうから報告があがりまして」
「ふむ───で?」
ゆったりとした動作で葉巻に火をつける准将。
およそ、動揺すること知らないといえる歴戦の軍人。
……禁煙なのは言うまい。
「───『鬼神』が倒されました」
「ほう、『鬼神』が──────……って、鬼神がぁぁぁああ?!!!」
バッターン!!
ゆったりと腰かけていた社長椅子ごとぶっ倒れ、灰皿を頭からかぶる准将。
取り落とした葉巻が制服に引火しかけている。
「あっち! あっちぃぃいいいいい!!」
「お、おおおお、落ち着いてください!」
「おおおおおおおお、落ち着けるか! 落ち着ている場合か!」
さっきと言ってることが100%違うが、それはさておき。
「い、いいい、いったいどういうことだ?! どこが倒した?! 中国か? ロシアか?! ああああ、まさか───民間だとかいわんだろうな?」
「そ、それは不明ですが……その、深層を飛ばしているドローンがつけた発信機の信号が途絶えまして………………」
…………。
……。
「………………あ゛?!」
信号が途絶ぅ??
……。
…………。
「おいおい……そんなことで? ま、まさか、それだけのことを報告しただけかね? ビックリさせおって。そんなもん、ただの電池切れじゃぁないのか?」
やれやれと頭をふる准将。
しかし、
「あ、ありえませんよ!! すくなくとも、数年はもつリチウムですよ?」
「じゃあなんだ? 故障か! いや、そうに決まってる! 一体奴にわが軍の精鋭が何人───」
「いえ! それもあり得ません! 故障の可能性はほぼゼロです! なぜなら、最後に
バサッ!
一枚の資料を叩きつける中佐。
その手がぶるぶる震えている。どうやら、よほどあり得ない事態なのだろう。
「……ダンジョン外─────日本なのです!」
※ ポンタの戦果:
なんかキモい刺青入りの黒いオーガ ※
《クラフト:オーガ肥料(骨なし)
オーガの骨(全身)
《ドロップ:
ソフトボール大のなんかうっすら光る
小型の機械(破損)
オーガの持ってた鉈
迷彩服の腰蓑
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