第10話「獲物その4………………まてまてまてーい! 無理無理無理ぃぃぃいい!!」

 ワォォオオオン!


『わぉぉぉぉおおおおおん♪』


「『わぉぉおぉおおおん♪』……じゃないわ、ポンタぁっぁああ! 犬小屋禁止っつたろうがーーーーーー!! 庭はOK、犬小屋禁止、アンダスタン理解した??!」


『わふ??』

「…はい、してないねー」


 ヘッヘッヘッヘ♪


「褒めて褒めて、じゃねーーーーーわ!! なんッッじゃこりゃ!!」



   なんっっじゃこりゃーーーーーーーー!!



「もう一回、言う! なんじゃこりゃーーーーーーーーーー!!」


 天を仰ぎながら頭を抱える高橋。


 だって、

 高橋家のお庭に、ドデーーーーーーーーンと、横たわっている超危険生物───……。


 『刺青』入りの真っ黒な肌ぁ、

 巨大な一本角に、反り返った牙ぁぁ、


 そして、爛々と輝く真っ赤な瞳ぃぃいいい。

 

 これって、

「お、お、お、オ───……」


 腕は太く、

 胴は筋肉質。

 その腰には各国の迷彩服を繋ぎ合わせた雑な腰蓑一つ───……。


 体長3m越えのぉ…………。



 ──その名も、



「オーーーーーーーーーガじゃねーーーか、それぇぇぇえええええ!!


 つーか、やべぇ!! お、俺でも知っとるわ! それぇ!!

 ダンジョン内で超危険といわれるモンスターじゃねーか!


 ようつべ話題のあれだろこれ?! 米軍特殊部隊がズタボロに敗北した危険生物じゃん!!


『ワォォオォオオオオオン♪』


 「ワォォン♪」じゃねーわ!!

 こんなもん持って帰ってくんなし!!


「あああああああああ、もう!! あーーーーーもう! どうすんのこれぇぇえ!」


 勝ち誇った雄たけびを上げるポンタ。

 その下には先日のオーク動揺、半殺し・・・にされたオーがぐったりと横たわっていた。


 ……って、ちょっと待て。


 は、

 …………半殺し??


 半殺しってことはその───あ、一応、生きてるのね……。


 …………。


 ……。


 って、

「生きとるがな?!」

 こ、こいつ、動くぞ……!


 ──ギロッ!!

「ひっ?!」

 その目がカッ! と開いて高橋を睨みつける!!


 そして、のそりと起き上がると、


『グルァッァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』



 ビリビリビリビリビリ……!



「ひ、ひぃぃぃい……」


 最強の生物を目の当たりにして、

 生物として絶対に勝てないことを理解した全身の細胞が震えあがる。


 ズタボロとはいえ、オーガ!!

 数多の生物、人間を屠りに屠ってきた最強種、オーガ!!


 その戦意は微塵も衰えておらず、高橋ごとき矮小なる生物は一握りにしてやると猛り狂う!!


『グルァァッァァアアア! グガアァァァアアアア!』


 オーガが……二本の足で───立つ!!

 それだけで、ズズン……と、小振るぎする高橋家。


「で、デッカ……! でっかーーーーーー!」


 残暑の陽光が遮られ、黒々としたシルエットとなって浮かび上がるオーガ。


 マジでデカい……。


「……いや、これ、絶対犬小屋よりでかいやん!」


 絶対に入り口通らなくね?!…………え? ポンタ君さぁ、これどこで拾って来たん?!


『ぐるあっぁぁあああああああああああああああああああ……!』


 ズシン! ズシン!!


「こっわっ!! こっわーーーーーー!! こっち来るし、こわぁぁぁあ!!」


 生きてるオーガ、こっわぁぁあ!


 あああああああああああ!!

 でけぇぇぇえええ!!!


『ゴルァァァァッァァァァアアアアアアアアアアアアアアアア』



  がらっ



 あ、やべ……。あの音は───。


「ああーーーーーもう!! マジでうるせーーーーー!! 無職の高橋さーーーーーーーーーん! いい加減にしてくださいよ、うるさいですからぁぁああ!! 引っ越せ、ばーか!」


『ぐるぁ?!』


 そして、近所のおばちゃんスゲーな?!

 オーガの雄たけびに全然動じてないし、なんなら言い返してるし!! オーガもちょっとビビッてね?


 ………………つーか、誰が無職じゃーーーーーーーー!!


 無職だけどさーーーー!!




 つーーーーーか、デッカぁぁぁあッ!!

 ほんっと、でっかーーーーーー!!



 オークが2~3mだとしたら、こいつ──────かるく3mはあるよね?!

 俺なんか、パクっと一口でやられるやん!!


『ゴルルルルルルルルルルル───ふしゅうう』


 ズシンッ……。


「え?」


 ズシン、ズシン、ズシン……!


『ゴフゥゥウウ……』


 ズン、ズン……!


「ちょ、こっちに───?」


 え? やばない?


 ……お、俺、死ぬ??

 死ぬの?


「死ぬのぉぉおおおおおお?!」


 ひぃぃいいい!!


 瀕死の……オーガが、腰のデッカイを持ち上げぇぇぇ──────高橋の頭上に高々と掲げる!!


「──武器やん?!」


 その動きがスローモーションにみえ……庭の土がパラパラと落ちる様までよく見えた……。



    「……あ、俺、死んだわ」



 そう思った瞬間……凶悪なまでの鉈が振りおろッ───。


『わふッ♪』べし

『ぐるあぅ……』


 おっっっふ……。

 オーガさん、股間を抑えてうずくまっちゃったよ───。


「うわー……」ありゃいてぇーわ。


 ポンタさん、つぇー。& 容赦ねー。

 前足で、オーガの股間強打……あーあれは絶対痛い。超絶痛いやつだ……。


『ぐ、ぐるぉぉぉぉ……』


 股間を押えて、オーガ涙目。


 そして、直後──全身からブシューーーー!! と血を噴き出して、ついにズズンと完全に倒れ伏す───!!


 ───う、うわー、よく見たら、あちこちズタズタでグローイ……。


 す、既に瀕死だったのね……。


「え、えーと……? ポンタさんや?」

『わふ?』


「……これ、やっぱポンタ君……いや、ポンタさん・・が捕ってきたん?!」

『わふわふ♪ わふぅ♪』


 めっちゃドヤ顔のポンタ。

 とりあえず撫でておくと『へっへっへ♪』と嬉しそう。……目ぇキラキラやん。


「いや、すげーなポンタ。……オ、オーガって、下層とかにいるモンスターじゃなかったっけ?!」


 この前モンスターの種類を検索した時見たよ。


 たしか──────ほら、これ。

 そう…………これぇえ!


 スマホを操作すると、確かに褐色肌・・・にこん棒を構えた『大鬼オーガ』の姿が映っている。



 3m超えの人食い鬼 通称:オーガ



 討伐推奨レベル───…………。


   『A』


 え、えー? エーって、エーか……。


 ……いや、それ───。


「…………ち、超危険指定モンスターじゃねーかぁぁぁあ!!」


 え?

 って、これマジか?!


 概ねモンスターの強さを格付けすると、E~Aに分けられる。

 その時の状況や戦場、または数にもよって大きく異なるが、個体としてみるなら───。

 ゴブリンがD級、オークがC級───……で、飛んでオーガがA級モンスターって……うそぉ?!


 重武装のハンターがパーティを組んで倒すことが推奨されているモンスターだとぉ。



 備考欄、ぽちー


 …………。


 ……。


 オーガ:非常に好戦的なモンスター。中堅以下のパーティが遭遇した場合は逃走を推奨。または、その際は緊急無線にて、援軍を要請すること。引き連れトレイン厳禁。


 ……だってさー。


 どうやら、自衛隊や米軍でも、単独で撃破することはめったにないうえ、

 基本は重火器───対戦車ミサイルや無反動砲で倒すレベルだという。


 って、



 …………た、対戦車ミサイルぅ??



『わふッ♪』


 え?

 ポンタ、対戦車ミサイルなん?


 え、どんだけぇ?

 YOUはどんだけ規格外なん?


 ……いや、マジで。


 ふつー普通日常生活で「対戦車ミサイル」とか「無反動砲」って単語、聞かないよ?

 聞ッかないよぉぉおお~!!


「HAHAHA! あはははははははははははははははははは、はーーーーーー………………」



 …………はー。



 マジで、これどうしよ……。

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